第10話

07.


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 流石にカモミールのメンバーと急に出会す事は無かったが、代わりに棘のある声でコルネリアが言った。

「おいお前、殊勝な態度取っておいて嘘だったとかじゃないだろうな」

 今まで飄々と相手を責める事はあっても、言葉尻から尖った言い方をする方では無かった彼女の声音に息を呑む。
 言葉の矛先に居るのは眉根を寄せたフェイロンだ。え、この話の流れで魔女狩りみたいな事始める? とも思ったが、それを珠希が窘める前に有角族の彼もまた棘のある声音を吐き出した。

「貴様今の状況を見てよくもそのような事が言えたな。この話の流れで、俺が急にリンレイ様の元へ寝返ると本当に思っているのか?」
「有角族は縦社会。お前があの齢千年の重鎮に逆らう力があるとは思えない、つってんだよ」
「そも、主の方もまだ自らの素性を明かしておらぬ。いつ牙を剥くか判然とせぬのは主も同じよ」

 ランドルが全く以て唐突に離脱したせいか、仲間内で猜疑心が芽生えているのは確かだ。が、ここで呆れ顔をしたイーヴァが双方の言い分を諫める。睨み合っていた猛獣達は、一応彼女の言い分を呑んだらしい。少しだけ静かになった。
 話が途切れたのを見計らって、イーヴァが落ち着いた声を紡ぐ。

「考えなくちゃいけない事がたくさんあると思う。フェイロンは本当にこれで良かったのか分からないし、コルネリアの素性も気になるけれど。一つずつ答えを紐解いていこう」

 それもそうだ、とパーティメンバーが空前の落ち着きを取り戻す。というか、苛立ちを一応は沈めた。
 異論が上がらないのを見て、イーヴァが一つ目の疑問を口にする。

「まず、珠希を召喚したのはリンレイ様という事でいい?」
「そうさな。あの方の召喚ランクはAオーバーだ。異界の人間を喚ぶのは、不可能ではないだろうよ」
「だがフェイロン、それに確証は持てないんだろ?」
「うむ、そうではあるが……。この際、召喚経路は置いておいた方が良いのではないか? ダリル殿。これについては最悪、リンレイ様の口から真実を聞いても構わぬ」

 あのさ、と2人の考察というか、終わりかけた話題を突く。これに関しては、「召喚された身」である自分にしか判断出来ないだろう。

「それなんだけど、私は多分あの人が喚んだって事で合ってると思う。まあ、勘だけども」
「ううむ、そうか……。まあよい、原理については後程考えるとしよう」
「いや、今考えないとまずいぞそれ」

 渋い顔でそう言ったのはコルネリアだった。彼女は今回、割と大人しかっただけに先程の豹変ぶりには驚いたし、今も急に積極性を見せてきてキャラがブレブレである。
 思いの外真剣な顔に押されたのか、顔をしかめたロイが首をかしげた。

「え、ガチの話か? じゃあ、一応今のうちに言っとけよ」
「そりゃいいけど、まず、ここからはあたしが個人的に持ってた情報と今起きた事を摺り合わせた推論でしかない事を予め理解しとけよ。最悪、ただの夢物語の可能性もあるからな」

 笑みを完全に消し去ったコルネリアが念を押す。煩わしそうにフェイロンが手を振った。早く話せという意だが、生憎と2人の仲が悪いせいか彼女は彼の事を頭数に入れてはいないようだ。
 代わり、まるでレギュラーメンバーのように居座っていたバイロンが話を促す。

『それは私も気掛かりだ』
「……お前さ、珠希の中にカルマの半身が居るって話をしただろ」

 ――いや知らないんだけど! ダリルとロイが口々にそう言う。イーヴァが素早く離脱組に事情を説明した。
 というか、あれは確か詳しい話は全員が集合してからという事になっていたので一瞬お流れになった上、その後はリンレイの襲撃があって忘れられていた話題である。情報量が多かったから、存在すら忘れていた。

 ともあれ、コルネリアの確認に対し、バイロンは首を縦に振る事で肯定の意を示す。それを確認した上で魔族はゆっくりと推論もしくは夢物語を口にした。

「あたしはそもそも、『カルマ封印派』とかいう日和見派なんだよ。今回ここに来たのも、そっちの仕事さ。だからまあ、今更だけれど珠希と契約したのは偶然では無いかな」
「謎の召喚技術過ぎるだろ。召喚術ってされる側は主人とか選べたっけ……?」
「おう、ダリル。人間は知らない技術なんざ五万とあるある。深く考え出したらキリが無いぞ」
「そ、そうか……」

 話の辻褄が合ってきた。つまり、アールナ達と対立していたのも、そもそも思想が対立していた為当然の出来事。

「で、話を戻すけど。そんな訳で、あたしはカルマにちょっかい出してる連中について調べてた。まさかこんな大きなヤマになるとは思わなかったけど。で、リンレイの目的だけど――あいつの目的、多分カルマ殺しだよ」

 ぴきっ、とバイロンの手が不自然に動いたのを見た。彼にとってカルマとはアイリス。看過できない事態だと思ったのかもしれない。