第10話

03.


 ダリルやロイ達とはすぐに合流出来た。この比較的仲の良い2人の間に放り込まれたランドルは、さぞや居心地が悪そうにしているだろうと思ったが澄ました顔をしている。

「フェイロン! どうだった? お仕事終了か?」

 岩に腰掛けていたロイが元気一杯に手を振る。対し、テンションも低く片手を挙げて応じた有角族は鷹揚に頷いた。何と言うか偉そう且つ、含みのある動作。しかし様になっているのだから不思議だ。
 が、ダリルはロイとは違い背後にいる見慣れない影を既に発見していた。感動の再会もそこそこに、眉根を寄せて首を傾げる。

「イーヴァちゃん、どうしてバイロンがここに?」
「カルマと交戦中に出て来た」
「今の一言に情報量多すぎない? 吃驚したよ俺は……」

 待機組に起きた事を説明する。カルマとは何度か出会しているからか、今更驚きなどは無いらしい。

 話を聞き終えたダリルが神妙そうに眉間の皺を深くする。

「つまり、もうカルマの脅威は去ったって事か? 小瓶に閉じ込めて」
「分からぬ。ともあれ、まずはギレットへ行き、リンレイ様に――」

 フェイロンの言葉は最後まで続かなかった。がさっ、という誰かが草の根を踏み分けるような音が耳朶を打ったからだ。最近、魔族なりカルマなり、或いはバイロンなりに奇襲を受けまくっていたせいか、皆が神経質だ。
 案の定、頭を戦闘モードに切り換えたロイはその手に得物を持っている。その辺に落ちていたようだが、ダリルと手合わせでもしていたのだろうか。

「最近、こんなんばっかりだね。イーヴァ……」
「いい加減、私達も用心という言葉を覚えるべきなのかもしれない」

 至極冷静なイーヴァの一言が耳に届いた刹那。
 現れたのは王都の兵士だった。どうやらここで、《大いなる虚》の番をしていた2人組らしい。身構えていた仲間達が警戒心を解くのが分かった。

 ――のに。
 何故だろう。背筋に嫌な悪寒が走る。こういうのを何と言うのだろうか。虫の知らせ? 第六感?

「ねえ、ダリルさん。ちょっと――」

 果たして、その予想は当たった。
 兵士に続いて更に3人。フェイロンと似たような、しかしまだ発展途上の角を携えた種族。有角族を伴っていたのだ。

 ただ、広がる光景が示す意味が分からない。あるとすれば、フェイロンの知り合いという線だが当本人は険しい顔をして薄く口を開いている。端的に言ってしまえば、まるで心当たりが無いという顔立ちだ。
 更にその後。3人組に道中の安全を任せるような形で現れたのは、先程から話題に上っているリンレイその人だった。

「リンレイ様――」
「待て」

 特にその場から動くつもりは無かったが、通せんぼするようにフェイロンの腕が伸びて来た。殺伐とした空気が場には満ちている。

 この大自然の風景がまるで似合わないリンレイは、フェイロンの顔を見るなりふ、と小さく笑った。見惚れてしまうような美しい微笑だったが、それには言い知れない『何か』が漂っている。

 大剣の柄に手を掛けているダリルがすっと表情を消し、注意深く対峙している面々を見つめて言った。

「仲良しこよししに来た訳じゃなさそうだな……」
「殺気立ってるな! というか、何で有角族のお偉いさんがこんな所に居るんだよ」

 ロイは楽しげにそう言ったが、この殺伐とした空気は拭えそうにない。
 ゆったりと余裕の笑みを浮かべたリンレイは、片手を差し出してはっきりとこう言った。

「珠希よ。そなたを塔へ迎え入れる準備が出来た。妾と一緒に来ると良い」

 ――別に頼んでませんけどぉ!
 これが数瞬前であったのならば、その言葉に「ありがとう」と返事していたかもしれない。しかし、カルマの件は一応の片が付いた。しかも、彼女にはバイロンによる疑惑が掛かっている。
 ホイホイとお願いします、とは言えない状況だ。

 ちら、とリンレイの事を一番知っているであろうフェイロンの判断を仰ぐ。が、いつもは頼りになるおじいちゃんはしかし、眉根を寄せて疑問を顔一杯に浮かべていた。上手く情報の処理が出来ていないような、そんな顔。

「……リンレイ様。それはどういう意味でしょうか」

 問いに、リンレイはゆっくりと伸ばしていた手を引っ込めた。漠然とした問いに、何か感じ取るものがあったのかもしれない。

「そのままの意味であろう。珠希を塔へ連れて帰ると言っておる」
「カルマの件でしたら、先程解決致しました。珠希本人の意志ならばともかく、貴方の要求を頭から呑み込む必要性はありませんよ」
「そうか……。解決したか。うむ、成る程。聞いていた通りよな」

 ――誰に、何を、どういう形で。
 何か忘れている事がある気がする。それをリンレイへ報告したのは、フェイロンではない。ならば、誰が。