02.
――一家殺害によって捕まった囚人、エリオット。
しかし、彼を前にしてもアルデアさん達と対峙した時に覚える、鳥肌の立つような怖気は感じられなかった。覇気が無いからかもしれない。
「……誰だよ、あんたら」
重々しく口を開いたエリオットさんは疲れ切った声音を隠そうともしない。私としても、何だか疲れているようだし荷物を届けて早く戻りたいのだが、如何せん届けなければならない荷物の検閲が終わらない。
しかし、無言でいるのも良く無いと思ったので彼の問いに答える。なるべく噛み砕き、相手が不快にならないよう細心の注意を払ってだ。
「私達はとあるギルドに所属している、運送屋です。今日はあなたに届け物があってここまで来たのですが、荷物のチェックが終わらないみたいなので、少しだけ待ってください」
「そうかい。荷物の話なんて聞いてないけどな」
「えーと、お届けする荷物は――」
運送屋さん、と看守から止められた。私は慌てて口を噤む。何故咎められたのかは分からなかったが。
しかし、イザークさんは理由を把握したらしい。目を白黒させている私に聞こえるくらいの声でボソッと呟く。
「ぬか喜びさせちゃ悪いって事でしょ。それに、君の持って来た物次第で、脱獄を促す可能性もある。僕達が口を出すべき問題じゃないよ」
「な、成る程……イザークさん、そういう事情に詳しいよね」
「逃げる動機を作らないのは、人を捕らえる時の基本だよ。動力を与えてしまうと、抑え込むのが手間だからね」
チラ、と死人みたいな顔色のエリオットさんを見やる。
とてもじゃないが、写真如きを渡した所で死に物狂いになり、脱獄を企てるようには見えない。私の共感力が未熟だからだろうか。
「何をコソコソ話してんだよ……」
「あ、すいません」
何か言いたげに唇を引き結んだエリオットさんがボソリ、と呟く。
「娘も生きてれば……今はこのくらいの歳に……」
「え?」
娘がいる――否、いたのか。どことなく哀愁が漂う口調。一家殺人事件と聞いたが、一体彼は何をやらかしたのだろう。とてもじゃないが、人を殺す胆力や度胸があるように見えない。
訊く訳にもいかず、モヤモヤした気分で黙り込んだ時だった。先程、手荷物の検査をする、とそう言った看守が封筒を持って帰ってくる。
面会を監視していた看守にその封筒を渡し、一言二言話すとまた面会室から出て行ってしまった。
「お待たせ致しました。この荷物は囚人に渡して構いませんよ」
「あ、ありがとうございます」
何でありがとうと言ったのか分からないが、封筒を回収。家族写真のようだったし、あの死人みたいな顔色が少しはマシになればいいのだが。