04.
こちらが何も応えずにいると、不意にアルデアさんが手を打った。何故か自信満々のドヤ顔である。
「フェザントだ!ね!そうでしょ!?」
――やっぱり、という気持ちの方が強かった。
フェザントさんそのものは普通の人のように振る舞っていたが、イザークさんのあからさまな警戒、異様な空気からしてタダの人でない事は確かだ。決めつけるのはよくないと思って、無理矢理思考から追い出してはいたが。
訊いてもいないのに、アルデアさんは笑いながら個人情報を暴露する。
「何もされなかった、ミソラちゃん。気をつけないと、あんな奴だけどフェザントは真性の変態だからさ!あいつ、何で箱を可愛くデコるのか訊いたら何て答えたと思う!?『可愛い女の子が可愛い箱を持ってる時の目線とか表情とか、指の動きが好き』って言ったんだよ!ヤバイよ、犯罪者予備軍――いや、そういえば殺人鬼だったね。僕等」
ちっとも笑えない話である。どころか、犯罪者である事を認めたかのような発言に私は数歩後退った。最近、彼は自身の危険性をあまり隠さなくなってきたように感じる。
「――じゃあ、はい。荷物届けました。さようなら」
「まあまあ、そう言わず!待ってよミソラちゃん!」
荷物を届けてしまえば帰れると踏んだ私は、半ば強引にアルデアさんにその荷物を押し付けた。犯罪組織、オルニス・ファミリー。本当はサインを貰わなければならないが、もうそれもいい。人命第一である。
しかし、私の意に反してアルデアさんが肩に手をかけて来た。すかさずイザークさんが割って入る。本物のボディガードのように手慣れた動きだ。
「わっ……!すっごく違和感の無い動きだなあ。そっち系の人かな?」
慌てて離れて行ったアルデアさんに、私は堪らず訊ねた。
「何でそんなに私の事を仲間にしたいんですか?」
「あ、それ訊いちゃう?だって君、いるだけで凄く便利そうだし。僕と君が旅先で何度顔を合わせたと思ってるのさ。移動に便利なギフトを授かってるんでしょ?」
「……どうして移動する便利さに拘るんですか」
「どこへ行くのも自由なんて、素敵だろう?見ての通り、僕達はお尋ね者だからね!公共の乗り物を使うのも毎日ドキドキなんだよ、分かる?そういえばダスト・ターミナルでも会ったでしょ、ミソラちゃん。ああやって、いつ軍の人間が押しかけて来るか分からないしさあ」
それは残念な事に自業自得というものだ。何せ、彼等は殺人鬼。ギルド運営に携わっている私ですら口を挟む余地が無いというものである。
「私は、体の良い乗り物じゃないんですよ」
「知ってるよ?僕達の最終目標は自由だからね。うちに入るのなら、君も自由でないと」
それは、と皮肉に満ち満ちた声音でイザークさんが言う。
「嫌いな奴は殺してしまえ、っていう自由が過ぎる自由の事?凄いね、君等。とんだサイコ集団だ」
ははは、と乾いた声でアルデアさんが嗤う。
「やだな、こんな無秩序極まりない世界で秩序も何もあったもんじゃないでしょ」
はあ、と呆れた溜息を溢したイザークさんがこちらを見やる。
「行くよ。相手にするだけ無駄だからね、こんな奴等」
「あ、うん」
行っちゃうの、とアルデアさんが唇を尖らせてつまらなさそうな顔をするが無視。荷物を届けた以上、ここに長居は無用だ。当然、目の前で技能を使う訳にもいかないので背後に細心の注意を払いつつ撤退。
そんな私達を――否、私を見てアルデアさんがぽつりと呟きを漏らす。
「仲間にしたい、って言ってるんだから背後から襲い掛かる訳無いじゃーん」
当然その言葉を鵜呑みにするのは彼の存在が禍々しすぎるので、私は常に背後が気になって仕方が無かった。