第2話

08.


 しかし、戻って来た彼は開口一番に、爽やかな笑顔からは想像も出来ない疑いの言葉を口にした。

「何だかやっぱり、この依頼は胡散臭いですね。あのスケルトンロードも、まるで謀ったようなタイミングでしたし、狩られているのはアンデッドではなく人間の我々かもしれないですね」
「お、恐ろしい事をさらっと言わないで下さいよ!えー、そんな突拍子も無い話、モルフィさんにもかなり失礼ですよ!」
「そういえばミソラさん、先程、主催者さんを連れて逃げようとしましたが、アレは止めた方が良いと思いますよ。貴方は全然戦う能力が無い割には珍しい技能持ってますし、手の内は明かさない方がいいですね。人は疑って掛かった方が、貴方の為です」

 ちょっと、とアレクシアさんがウンザリした顔で言葉を発した。見れば、彼女はラルフさんの腕時計を指さしている。

「終了時刻になったわ。スケルトンロードのせいで時間を取られたわね。採算取らないと、やってらんないわ。ロード討伐報酬でも強請ろ」
「お前……悪魔のような奴だな。だがしかし、正当な請求と言える、か?」
「言える言える!こっちは死ぬ思いして上位モンスター倒してんだから、別途ボーナス貰わないと舐められるわよ」
「まあ、死ぬ思いをしてアレを討伐したのは俺ですけどね」

 しかし、スケルトンロードの頭蓋及び金の装飾品の類を主催者に返すつもりは全くないようだった。こと、金の件に関しては容赦の欠片も無いアレクシアさんには戦慄を隠せない。

 ***

 最初の広場に戻って来たのは、集合時刻を少しばかり過ぎた時間だった。モルフィさんを警戒し、少し遠くの場所に着地したからだとも言える。

「何か、人、少なくないですか……?」
「もう集合時間を10分以上過ぎているな。脱落か?それとも、遠くまで足を伸ばし過ぎて時間内に帰って来られなくなったか」
「あの、ラルフさんはそれ、どっちだと思います?」
「前者」

 時間厳守主義のラルフさんらしい答えだが、残念な事に私はただの遅刻だと思う。まさか、アンデッド系モンスター如きに半数くらいの人数が返り討ちに遭うなんて想像も出来ない。
 しかし、ここでエーベルハルトさんがラルフさんの意見に賛同した。

「ですね。スケルトンロード、複数体いる可能性もありますし、何より俺達が一番最初に出会ったとも考え辛い。先に他のギルドを潰し、その後で俺達と会ったかもしれません」
「そうね。あたし達、そこそこ腕利きの集まりだったから良かったけれど、アンデッド系下位種だけを相手にする編成なら太刀打ちできないわ」

 などと話していると、討伐を開始した時のようにモルフィさんがマイクを片手に現れた。私達同様に、他ギルドの姿が見えないので僅かに湧いていた広場の空気が鎮まる。主催者はマイクテストをすると、私達の疑問にまずは答えを寄越した。

「えー、私も遭遇しましたが……どうやら、スケルトンロードが発生したようで……何組か、帰って来ていらっしゃらないギルドがあるようです……。捜索は我々で致しますので……皆様の安全面を考慮して、先に報酬を配る事にします……」

 モルフィさんが話している間にも、例のメイドが各ギルドへ赴き、討伐数の確認をしている。そんな折、アレクシアさんが大きな声で主催者に尋ねた。

「すいません。あたし達、そのスケルトンロードの討伐に成功したわけですけど、別途ボーナスとか貰えないんですか?規定外の仕事をしたわけですし、何かあっても良いと思うのですが」

 ええ、とモルフィさんは頷いた。その視線が、サークリスギルドの集まりに近付いていたメイドへ注がれる。メイドもまた、主人に応じるように一つ頷くと私達に対し質問してきた。

「規則ですので、討伐の証明品を提示して頂きます」
「頭蓋と杯、チェーンがあります。これで良いでしょうか?」

 完全にポーズだけではあったものの、確認したと事務的にそう言ったメイドは再び主人に軽く会釈をした。それだけで伝わったのか、モルフィさんが先程のアレクシアさんの問いに明確な答えを口にする。

「追加報酬として対処致します……ご迷惑をお掛け致しました」
「いえいえ」

 にまにまと嗤うアレクシアさんは、今日最高に輝いている。それにしても、モルフィさんはやはり金持ちなのだろうか。金に糸目を付けないというか、あまり金という概念に興味が無いようにも感じる。