09.
イザークさんの言う事は尤もだろう。何せ、私は命ではなく私自身の実用性を狙われている。それにオルニス・ファミリーは殺人鬼の集団。一度敗北した程度では折れたりしないだろうし、次はもっと手の込んだ作戦を仕掛けてくるに違い無い。
ここでどうにかして死亡してもらっていた方が、今後の安寧に繋がる事は違えようもなく確かである。その一点においてのみ、イザークさんが言う事は正しい。死者が生者に干渉する事など出来ないからだ。
「でも、やっぱり人殺しなんて……」
「別に君にやれとは言ってないでしょ。そんな期待もしてないしね。そんなに嫌なら外に出ててよ。邪魔」
「い、いややっぱり駄目だよ!こんなんじゃ、私達が第二、第三の殺人鬼になりかねないし!ね?人道は捨てない方向で行こう?イザークさん、ただでさえ凶悪で辛辣な性格してるんだから!」
「じゃあ、どうするのさ、コイツ」
「わ、私が適当に軍の人を捕まえて来るよ。ほら、あの人――トレヴァーさんとか!」
最早あの人にはギフトバレしているようなものだし、事情を説明したら殺人鬼の検挙くらい引き受けてくれそうだ。その後、私まで管理下に置くとか言い出しそうだが、そこはそれ、素早く逃げれば良い。
しかし、反対するようにイザークさんはその目を眇めた。何を言ってるんだこの馬鹿は、と言わんばかりの顔である。
「――じゃあ、仮にその軍人を連れて来たとして、君まで指名手配されたらどうするの。そんなギフトぶら下げてたんじゃ、連合軍の監視対象は間違い無いでしょ」
「その時は――逃げるよ。一生軍で暮らすなんてまっぴらだし」
「どうやって、どこに?」
「ギフトを使って、どこにでも。安全な場所に逃げ続ける。適当にギルド手伝ったりすれば、生活には困らないよ、きっと!」
「楽観的だね、随分と。そんな面倒な事をするくらいなら、アルデアは殺しておいた方が良いと思うけど」
溜息を吐いたイザークさんは持っていた短剣を懐にしまった。
とにかく、長居は無用だ。一度ギルドに戻って、今日あった事をフェリアスさんとコハクさんに報告して指示を仰がなければ。
「表、騒がしいね。近隣住民が何か起こった事に気付いたかな」
「えっ!?ど、どうしよう!」
「僕が割った窓から外に出て、家から離れた所でギルドへ移動するしかないでしょ」
「確かに!」
椅子を元の場所に戻した私達は急いでアルデアさんの家を後にした。
***
「わぁ、酷いものですねえ。感激してしまいます」
グロリアはそう呟くとうっとりと目を細めた。その隣に立っていたトレヴァーは溜息を吐き、どよめく一般人達の声など聞こえないふりをした。
目の前に広がる惨状に視線を落とす。
殺人鬼が潜伏している、と国の連中に依頼されて様子を見に来たは良いが、その殺人鬼達はと言うとすっかり床で伸びてしまっている。
オルニス・ファミリーの一角、フェザントは血を流して倒れており、ボスであるアルデアは床に寝そべっているだけだ。しかし、フェザントの方は放っておけば死んでしまうだろう。
「グロリア。まずはフェザントの方を止血しろ。そのままだと、連れて帰る前に死んじまうし」
「了解致しました。アルデアの捕縛はお願い致します」
「おーう、了解。ボス捕まえちまったし、これでオルニス・ファミリーは事実上崩壊か。しかし、俺達が乗り込む前に何があったのやら」
仕事が増える予感を察し、トレヴァーはもう一つ盛大な溜息を吐いた。