07.
「――あ」
不意にそれまでずっと黙っていたフェザントさんが声を上げた。その視線は私も、そしてアルデアさんも通り越して一点に注がれている。
彼の視線を辿った先にあったのは例の大きな窓だった。
ただし、窓の外にはイザークさんがいる。その手にレンガを1つだけ持ち、丁度腕を振り上げた瞬間だった。
瞬きの刹那にはガラスが砕け散る音が響く。窓という役割を破壊され、ガラスの破片を撒き散らしたそれを易々と飛び越えてイザークさんが室内に侵入して来た。
「ルナティア森林の木材ね。小細工が好きな事で」
ふん、と鼻を鳴らしたイザークさんはいつも通りの不貞不貞しい態度を崩す事など無かった。一方でアルデアさんはと言うと顔をしかめ、舌打ちまで漏らす。
「逃げなかったんだ?分かっているとは思うけど、ここでギフトは使えないよ」
「それはみんな同じでしょ。むしろ、そんなの無い方が僕にとっては有利だね。それで?覚悟は出来てるの?」
不貞不貞しい態度から一変、挑発的な笑みを浮かべたイザークさんは酷く好戦的だ。が、彼の師であるエーベルハルトさんも戦闘になると人が変わるので、この人達はこういう性質なのかもしれない。
顔を引き攣らせたイカルガさんが、数歩後退り、次の瞬間には踵を返して駆けだした。イザークさんが先程割った窓から外へ逃げ出す。
「ボス、イカルガ行っちまったぞ」
「いいよ。イカルガは戦闘向きじゃないからね。ここに居られても邪魔なだけさ。言う通り、ギフトも使えないし」
「そうかい」
無駄話してる場合、と呟いたイザークさんが懐から短剣を取り出した。いつぞやのモンスター退治の時に使っていた大剣は持っていない。室内だからだろうか。
「お、やるのか?」
好戦的にそう言ったのはフェザントさんだ。握り拳を作り、イザークさんと一戦交える気満々である。
最初に動いたのはイザークさんだ。素手相手に一切の躊躇い無く短剣を突き出す。その動きたるや、ギフトは発動していないにも関わらず私の目では全く追えないような速度で舌を巻く。
一方で、顔をしかめ、目を眇めたアルデアさんは銃口での狙いを定め倦ねているようだった。仲間であるフェザントさんに流れ弾が当たりかねないからだろうが、以前あっさり仲間を軍の人間に差し出したのと同一人物には見えない。