第12話

05.


 ――ここにいては危険だ。
 脳が痛い程の警鐘を鳴らしている。本来なら人前でギフト技能を使うのは好ましくないのだが、アルデアさんは恐らく私のギフトがどんな力を持っているのか大まかに把握しているだろうし今更だろう。
 一も二もなく、私はイザークさんをイメージした。まずは相棒を回収して、それからギルドへ戻らなければ。この配達物は外にでも置いておけば、彼等が勝手に受け取る事だろう。
 瞬きを一度、二度、三度――

「……あれ?」

 景色は変わらず、目の前では菩薩のような笑みを浮かべたアルデアさんがいるのみだ。
 移動に失敗した?
 もう一度ギフトを強く念じて使ってみる。いつもならばこんなに苦労せずとも思い浮かべた場所に移動出来ていたはずなのに、やはりいつまで経っても景色は変わらなかった。
 つう、と嫌な汗が背筋を伝う。もう現実から目を背ける事は出来なかった。何故だかは分からない。ただ、あの幽霊屋敷や森の民が住んでいた場所のように、ギフトが使用出来ない。それだけが事実だった。
 私の様子に気付いたアルデアさんが口角を上げる。得意気に口を開いた。

「ああ、そっか、ミソラちゃん逃げようとしてた?無理だよ、だってここ、ギフトが使えないようになってるからね。とあるツテで入手した、ルナティア森林の木を飾り木って事で散りばめてあるからね!」

 森の国ルナティア森林。アンリソンさん達の依頼を受けた場所だ。そうか、あの木、一応売り物だったのか。
 心臓が嫌な音を立てる。
 それはつまり、私の身を護る唯一の手段である逃げの手が打てないという事に他ならないからだ。
 イザークさんがドアを突き破れない理由も同様。ドアは特別製だと言った。ただでさえ、ギフト技能の使用が出来ないのにドアを頑丈に造られたら侵入経路を確保出来ない。つまり、私は自分独りの力でここから逃げ出すしかないという事になる。

「状況は呑み込めたかな?」
「……アルデアさんも、ギフト使えないって事になりますけど」
「そうだね。だけど、僕は人を殺すのにギフトを使ったりはしないよ?だってほら、人なんてそんなもの無くたって簡単に殺せるんだからさ」

 微笑んだアルデアさんはポケットからハンカチでも取り出すかのような気安さで黒光りするそれを取り出した。違えようもなくそれは拳銃だ。
 ――逃げなきゃ。
 私は視線だけを動かしてもう一度部屋の様子を伺う。太陽の光が燦々と入り込む窓は1つ。かなり大きめの窓なので、突き破る事が出来れば通り抜けるのは容易だろう。