04.
連れて行かれた場所はリビングのようだった。見間違いようもなくただの家だ。
私の様子を見たアルデアさんは不服そうに唇を尖らせる。
「あれ、ミソラちゃん。配達物は?あれ、大事なんだよ?」
「……それは、イザークさんが」
「あ、そうなんだ。えー、回収に行くの面倒臭いなあ。ミソラちゃんと一緒に食べようと思ったのに」
「仕事中です」
「もう辞めるでしょ、ギルド?」
――辞めないよ!
ついでに言うと辞める理由も無い。何をさも当然と言わんばかりに話を進めているのか。話を聞かないどころか、何か自分に都合のいい妄想でも語る体のアルデアさんには戦慄すら覚える。
いきなり殴り掛かってくるだとか、暴力的ではない展開に少しばかり落ち着きを取り戻した私は改めて室内の様子を観察する。
背後、玄関へと続く廊下の入り口にはフェザントさんが腕を組んで立っているし、正面の壁際に立つイカルガさんに至っては目が合った瞬間微笑まれた。何故だかレイヴンさんの姿は見当たらない。
もう能力云々とか言っている場合では無いだろう。素早く家の外に出、イザークさんを回収してギルドへ戻り、コハクさん達に現状を報告するべきだ。
チラ、と玄関を伺う。先程までイザークさんが立てる物音が騒音被害を奏でていたが、今は静まり返っているようだった。本当にドアをブチ破る事は出来なかったらしい。
「――ミソラちゃん?聞いてる?」
「え、あ……」
「もー、聞いてなかったんでしょ?だからさ、僕等と組まないかって話。君、どうしてもギルドを辞めたくないんでしょ?」
何の話をしているのだろうか。私は眉間に皺を寄せてアルデアさんを見つめていると、彼はやはり困ったように肩を竦めた。
「いやだからさ、僕からの妥協案だよ。ギルドで依頼を受ける権利は認めるから、呼んだらすぐに来て送ってくれない?それなら君はギルドを辞めないでいいし、僕も気兼ねなく君を仲間に入れられるよね!」
「いやあの、仲間にはならないんですけど」
「え?だからさあ、君、その首を横に振ってここから無事に帰れると本気で思ってるわけ?」
じり、と私は一歩後退った。後ろに立っていたフェザントさんにぶつかるがそれを気にしている場合では無い。
ここは良い場所ですよ、とイカルガさんが嗤う。
「人間誰しも人には言えない残酷な欲望を持っているものです。人間に必要なのは、その残酷な欲望を肯定してくれる同志ではないでしょうか?」
「や、別に私普通に生きてられればそれで良いんで……少なくとも殺人とかクソですよ、クソ。人を殺すのがそんなに楽しいんですか」
イカルガさんがきょとんとした顔をする。あまりにも無邪気で、とても殺人犯として指名手配されているとは思えない表情だ。
「……?別に、人殺しなんて楽しくありません。ただ、私は、彼への想いを形にしているだけ。矛先がダーリンに似た誰かに向いてしまうだけですから。ただの人を殺して、何になるというんですか」
次元が明らかに違う。
私と彼女では人種からして違うようだ。ゾッとするような怖気が表情に表れているのを感じつつ、私は額を伝う冷たい汗を拭った。