第12話

03.


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 白い砂浜。ソーダ水のように透き通っていてどこか青々とした広い海。海の国・アルトブルーはまさに南国の楽園と形容していい場所だった。
 いつか行った水の国グラン・シードの半分程の大きさしかないアルトブルーでは薄着の人々が行き交っている。常夏の楽園とはよく言ったものだが、湿っぽさが無いカラッとした暑さは機械の国とは異なっているようだ。
 時折公道を行き交う人々は砂浜に棒立ちの私達を微笑ましそうな目で見ては通り過ぎて行く。指定地としてこの場所は相応しくなかったのではないだろうか。

「早くそれ運ばないと、この暑さだし悪くなっちゃうんじゃないの」

 イザークさんの言葉で我に返る。そうだ、今私の手には焼きたてのターキー。このまま炎天下の中にいれば食中毒を引き起こしかねない。

「イザークさん、そっちの伝票取って住所を読み上げて」

 溜息を吐いたイザークさんがターキーを取り上げ、代わりに伝票を押し付けてきた。勿論、野外パーティ会場に届けろとは一言も書かれていない住所。まずは公道に出なければならない。
 住所の番地と立っている番地標識を見比べながら、ようやく私は届け先探しを始めた。
 時折道行く人に声を掛けたり、店番をしているお婆さんに道を聞きつつ、ようやっと辿り着いたのは見た所比較的新しい家が建ち並ぶ区画だ。

「いいなあ、新居。私如きの稼ぎじゃ家なんて建てられないけど」
「土地が安いんじゃない?」
「雪の国辺りからそればっかりだよね、イザークさん。そんな安価な場所に家を建てたいの?」
「別に。建てられるのならどこだって一緒でしょ。僕はもう故郷には戻れないんだからさ」
「た、確かに……」

 木造、赤い屋根の家。インターホンを押した。
 ややあって酷く慌てたような足音は、どことなく既視感を煽る――

「えっ、ちょ――!?」

 それは一瞬の出来事だった。
 インターホンに伸ばしたままの私の手を、中にいた何者かが思いきり引っ張り、家の中に引き摺り込んだのだ。幸いにして荷物はイザークさんが持っていたので、無事だが、私の柔な腕の関節が悲鳴を上げている。
 ともあれ、急な出来事に目を白黒させていた私は意味不明な言葉を口走り、周囲を見やる。

「あ……!フェザントさん!!」
「よう、久しぶりだな運送ちゃん」

 オルニス・ファミリー。それだけで嫌な予感しかしないが、私は直ぐさま背を向け、家の外へ出ようと踵を返した。付き合っていては身が持たない。

「まあ、待てって。うちのボスとイカルガが会いたがってんだ」
「ちょっと、仕事中ですって!」
「おう、そうか!」

 カラカラと笑うフェザントさんは何も聞いちゃいない。私の襟首を掴み、見た目に違わぬ腕力で廊下を引き摺って行く。抵抗を試みるが、基本的に逃げに特化した私では子猫が人間にじゃれつくようなものだった。
 外からイザークさんがドアを叩く音と、叫び声が聞こえるが何のその。

「い、イザークさーん!」
「無駄だぜ。ドアと壁は特別製なんだ。ただの力任せじゃまず破れねぇって!」

 ――なら、イザークさんならドアを外せるかもしれない。
 ギフト技能に《怪力》だとかパワー系のものがあったはずだ。のだが、私の期待を余所にイザークさんがドアを突き破って出て来る気配は無い。

「やあやあ、ミソラちゃん!待ってたよ!」

 そうこうしているうちに、今一番聞きたくないアルデアさんの声が鼓膜を叩いた。