04.
私は堪らず声を掛けた。と言うのも、イザークさんの様子を伺ったが完全に半眼。何かを諦めたような顔をしており、荷台を1時間も引き続ける事が出来ないという結論に、すでに至っていたからだ。
「あ、あの……え、本当にそれ……」
「ああ、頼む」
「あの、すいません、荷台を……森の外まででいいんで、持っていくのを手伝っていただけませんか……」
勇気を振り絞って――というか、断られた時の事を考えて震えながらお願いしてみる。しかし、存外彼はあっさりそれを了承した。
「分かった。森の外まででいいのか?」
「あっはい。そこからは、あの、私達で持って帰れますから……」
「そうか、《贈り物》で運送業をやってるのか」
贈り物――一瞬だけそれの意味を考えて、すぐにギフトの事を言っているのだと思いつく。ぎくり、と私は身体を強張らせたが彼はそれ以上、ギフトについての言及をしなかった。勝手に自己解決したらしい。
「俺はアンリソン。好きに呼んでくれ」
「あ、はあ……。どうも……」
荷台を舐めるように見ていたイザークさんが口を挟む。彼は彼でアンリソンさんの話はあまり聞いていなかったらしい。
「僕と君で交代しながら荷台を引こう。1時間延々と荷台を引き続けるのは、今の僕には出来ないけど休憩を挟めば行けるでしょ」
「助かる。集落の皆は忙しい」
「だろうね。人口少なそうだし」
「俺達森の民は、悪戯に人口を増やす事はしない」
確かに森に住んではいるが、ネーミングがそのまま過ぎないか。
疲れで上手く回らない頭の中、そんなどうでもいい事ばかりが過ぎる。しかし、早く戻らなければ。片道1時間だが、今回は大きな荷物があるのでもっと時間が掛かるだろう。このままでは流星群に間に合わない。
森の民の皆さんに見送られ、早速出発。
少し歩いた所で不意にイザークさんが呟いた。
「何でここ、ギフトが使えないんだろ……」
ほとんど独り言のようなそれに答えたのはアンリソンさんだ。
「木のせいだ。ここにのみ群生する木々は、贈り物の力を奪う。人が人である事を忘れない為に不可欠な場所だ」
「へぇ、そいつはスゴイや。じゃあ、君達もギフト無しで過ごしてるって訳?」
「ああ。本来の人間に、ギフトは必要ない。神の力を得ずとも、我々は暮らして行ける」
「ふぅん。ま、僕等シティ派は便利さを知っちゃったから、今更後戻り出来ないけどね」
普通に体力の無い私はその会話を聞くに留めた。話ながら歩く余裕など無い。
結局、木材を運ぶのに1時間半掛かり、この木材を目的地にまで運べば作業の終了時間は午後7時を回っていた。