第11話

03.


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 1時間程歩いただろうか。私の進行速度が酷く遅かったので、それに合わせたイザークさんはぐったりと疲れ切っている。体力と言うより気疲れだろう。
 道中で分かった事と言えば、何故かここではギフト技能が一切使えないという事。イザークさんも「ギフトが発動してない」、と言っていたのでこの一点のみは間違い無いだろう。しかしこれ、という事は帰りも森の外へ出なければギフトが使えないだろうし、もう1時間掛けて森の入り口へ戻らなければならないのか。
 言い知れない不安と疲れに押し潰されそうになりながらも私は深く息を吐き出した。ともあれ、目の前には閑散とした村――否、集落のようなものがある。驚くべき事に建物が全て藁とかそんなので出来ているのだ。

「言っちゃ悪いけど、未開の地って感じだね」
「イザークさん、声が大きい」

 私達に気付いたのか、ゾロゾロと藁の家から人が出て来る。彼等は服らしい服を着ておらず、男性は上半身に何も着ていなかったりと随分露出の多い格好をしていた。
 住人達は互いに目配せしあい、ややあってようやくその中の一人が私達に近付いて来る。ただし、周囲の住人達は酷く警戒しているようで鋭い視線がチクチクと刺さるが。ああ、これはまずい。何せ、今はギフトが使えないから逃げ出す事さえ出来ないのだ。

「――お前達、何をしに来た?」
「えっ、いやあの、運送屋ですけど……」

 とても久しぶりに運送屋を名乗った気がする。最近では私の名前と顔は知れ渡り、過激なファンと言う名の犯罪組織すら存在するくらいだ。必然的に名乗る機会も減るというもの。
 私の答えに大きく頷いた男はようやく依頼の話を切り出した。

「荷物を運んで貰いたい」
「あ、はい。えーと、どんな荷物ですかね。一応荷物をチェックして、危険物じゃないかを確認しなきゃいけないんですよ」
「分かった」
「そういえば、依頼書はどうやってギルドまで届けたんですか?」
「……飼っている鳥の魔物に運ばせた」

 ――軍の規約違反ッ!
 さらりと行われた違反行為に眩暈すら覚える。連合国の上をその鳥が通過しようものなら、撃ち落とされても文句は言えないだろう。

「い、イザークさん。ここヤバイんじゃ……」
「まあ、今更だよね。でもギフトも使えないし、連合の人間がここへ攻め込もうと思ったら骨が折れるな」
「あー、だから今まで何事も無く無事だったのかな」
「そうでしょ。地図にはこの場所、載ってる訳だしね」

 あの世界地図を完成させた人間は私と同じようなギフトを持っているに違い無い。そうでなければ、世界を回って地図を作成、なんて死ぬ程大変そうな作業が出来るはずがないからだ。
 ガラガラ、という何か車輪のようなものが回る音で我に返る。
 そして私は目を剥いた。

「えっ!?う、嘘でしょ……」

 先程の男性が丈夫そうなロープで吊っているそれ。木製の台車には大量の木材が置かれていた。控え目に言ってかなり重そう。
 ――くどいようだが確認しておく。ここではギフト技能は一切使えない。今も同じだ。
 という事は、この重そうな荷台を少なくとも森の入り口までは引かなければならない。私の力ではびくともしなさそうな、この荷台を。