01.
アルデアさんの襲来から数日が経った。今日は木曜日なので、お仕事デーである。私の仕事サイクルをすっかり理解したイザークさんはすでにギルド内にいるし、天気は可もなく不可もなく。仕事日和と言えるだろう。
そんな私の少しだけ浮ついたような気分を助長させるように、フェリアスさんが楽しげな顔で近付いて来る。ギルドマスターの彼とはそこそこ長い付き合いで、私のやる気に繋がるような事をわざわざ言いに来る事がよくあるのだ。
「ミソラ、イザーク。良い話があるんだけど、聞くかい?」
「えー、何ですか?フェリアスさん」
「学者の国で、天文学者が先々週くらいから今日は流星群だって発表したんだ。ミソラ、空中歩行持ってるし星を綺麗に見られるんじゃないのかい?」
「な、成る程!確かに!えっ、見に行きたい!」
まあまあ、と勿体振ったようにフェリアスさんが笑みを浮かべる。
「取り敢えず、君宛の依頼が1つあるから、それをこなしてから行ってね。とは言っても、まだ昼だし依頼が終わって帰って来てから出ても余裕はあるな」
「はーい、キリキリ働いてきまーす」
「よしよし、良い返事だ」
あの、とイザークさんが胡散臭そうな顔で訊ねた。ありありと疑惑の念を覚えている顔だと言うのに、対するフェリアスさんはその笑みを崩さない。
「それってどの辺りで見えるもんなんですか」
「んー……夕暮れの国以外なら、大概どこでも見れると思うけど。どこなら綺麗に見られるかは分からないな」
「そうですか」
「あれ、イザーク、意外と星とか好きなのかい?」
意地の悪い顔をしたフェリアスさん。魂胆を読み取ったのか、イザークさんが荒々しく舌打ちした。コハクさんといい、イザークさんを苛立たせる天才なのだろうか。
「フェリアスさん、今日の私の依頼は?」
「ああ、そうだ。確かコハクが取りに――」
ミソラ、とコハクさんに呼ばれて顔を上げる。特に急いだ様子も無い彼女はその手に紙の束を持っていた。何故、封筒から依頼書をすでに出されているのか。しかも、何となく紙束は少しよれているように見える。
「ミソラ、今日の依頼は森の国・ルナティア森林よ」
「森の国?行った事無いんですけど、それってちゃんと地図に載ってますよね?」
「載ってる。けど、どうしてだか開拓の進んでいない国だから、気をつけた方が良いかも」
――どんなとこなんだろう……。
国力の発展は国によってそれぞれだが、「開拓が進んでいない」、とはっきり言われる国は案外稀だ。何せ、どこの国だろうと日夜発展に勤しんでいるし、そうなってくると状態は一定とは言えない。
であれば、発展していない、なんて断言される国などそうそうありはしないのだが、存外とキッパリコハクさんがそう言うので余程危険な国なのかと勘繰ってしまう。
「行ってみれば分かるでしょ。ほら、さっさとしてよね。時間が勿体ない」
「ミソラ、今日はギルド裏でやって」
イザークさんとコハクさんからほぼ同時に話し掛けられた私は、どちらの言葉も中途半端に聞くという愚行に走ってしまった。というか、どうしてそう多く無い人数なのに発言のタイミングがピッタリ重なるのか。