第10話

01.


 今日は日曜日だ。何故か今週、色々と忙しかったので久々の休みに大いに羽を伸ばした私は昼頃にギルドへ顔を出す事にした。というのも、やることが無かったのだ。
 イザークさんは休みをきっちり取るタイプに見えるので、今日はいないかもしれないが、休みという概念が消えているとしか思えないアレクシアさんや――あわよくば、ラルフさん達はいるかもしれない。それに、誰もいなかったとしてもコハクさんとフェリアスさんのどちらかは必ずギルドにいるはずだ。

 ***

 ――と、数十分前まではそう思っていた。ギルドで適当に時間を潰し、日曜日を満喫しようと。

「……え?これどうしたんですか?ダイナミック改装工事?」

 いつも通りギルド裏に着地し、正面玄関から中へ入った私は思わずそんな言葉を溢した。
 というのも、ギルドの内部。ロビーに置かれた机は一つ残らず引っ繰り返ったり端へ追いやられていたり、或いは破壊されている。いつもコハクさんが鎮座しているカウンターは台が真っ二つに割れ、悲惨な状態だ。誰かが可愛がって育てていた観葉植物も倒され、土を周囲にバラ撒いている。ついでに床は所々水浸しだ。
 ――一体誰が、何故、こんな事に?

「こんにちは――うわ、何だコレ。ちょっと、邪魔なんだけど、君」

 聞き覚えのある声に驚いて振り返ると、私の後からギルドへ来たらしいイザークさんが立っていた。気怠そうな顔を隠しもしない。

「い、イザークさん」
「何?君もギルドの片付けに駆り出されたの?」
「いや、私は自主的にギルドへ暇潰しに……」
「ふぅん。それは災難だったね。まあ、僕も想像の数倍は散らかっていて驚愕してるけど」

 どうやらイザークさんは私とは違い、呼び出されてここまで来たらしい。
 事情を聴くべく、コハクさんの姿を探すが、いつもカウンターに陣取っている受付嬢の姿はどこにも無かった。困惑する。

「あっ!?ミソラ!?あ、あんた、イザーク!どうしてミソラがいるのよ!!」

 ギルドの奥から出て来たアレクシアさんは私を見つけるなり、悲鳴にも似たヒステリックな声を上げた。人を小馬鹿にした態度を取る事はあっても、ヒステリックに怒鳴る所なんてほとんど初めて見たようなもので目を白黒させる。
 対してイザークさんは酷く面倒臭そうに舌打ちを返した。

「知りませんよ。僕が来る前からいたみたいですけど」
「あ、そう……。ミソラ、今日は悪い事は言わないから帰った方が良いわ。休みなんでしょ?また明日来なさいな」
「いやあの、気になり過ぎて帰る気分じゃないんですけど。どうしたんですか、これ。何か暴れた跡みたいな……」

 アレクシアさんはその綺麗な顔を歪めた。
 ゆっくりと周囲を確認する。

「――コハクは話すなって言ってたけど、やっぱりあんたの事なんだから、あんたが知らないのはおかしいわよね。良いわ、何があったか説明するから……そうね、ギルドの外に出るわよ。途中で話の邪魔、されたくないでしょ」

 そう言うや否や、アレクシアさんにやんわりと腕を引かれる。ふん、と鼻を鳴らしたイザークさんはそれを見て言い放った。

「何でも良いですけど、僕は片付けの手伝いをしなきゃいけないし、事情は概ね把握してるんで。ちなみに、僕も話さない方が正解だと思いますよ。ま、聞くも聞かないも本人の意志次第でしょうけど」