04.追加人員
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「おい、戻って来ないぞ。アリシアの奴」
オルヴァーは苛々とパーティメンバーにそう言った。というのは、今日はいつもの面子――シーラ、ルグレ、アリシアの事だ――でクエストへ出掛ける予定なのだが、まだ必要な人材がいるなどとほざいたアリシアのせいで足止めを食っている状態だ。
何のクエストを受けるのかでさえ聞いていないが、人手がいるクエストなぞ最初から受けなければいいのに。そんなに依頼の数が少なかったのだろうか。
上記の問いに対し、反応したのはルグレだった。しかも返答は完璧に予想の範囲内。面白味の無いものである。
「アリシアの好きにさせればいいんです。何か面白い事でも発見したのでしょう」
「お前、アリシア以外の奴に待たされた時には嫌味言うのにな」
「当然です。僕はあまり気の長い方ではありませんから」
「矛盾……」
実際問題、アリシアとルグレのセットだけで見ると常識が備わっているのはアリシアの方だ。パーティから離脱したのがルグレであれば問答無用で置いて行くが、彼女であれば時間は掛かっても約束をすっぽかす事は無いという安心感がある。
ここでそれまで黙っていたシーラが珍しく、名指しで問うた訳でもないのに発言した。
「アリシアなら……もうそろそろ、戻ってくると思う……」
「おや、シーラ。貴方何か知っているんですか?」
「ううん。詳しくは知らないけど、シキミがどうのこうのって言ってた気がする……」
「それ答えだろ!!」
朝から何か企んでいると思っていたが、まさか相談室に乗り込んでいるのか。シーラの口調からして、正しい相談室への用件では無い気さえする。
へえ、とルグレが感情の色が伺えない返事をした。何かを深く思考しているのは明白で、朝からアリシア本人の言っていた事が本当であれば相談室に興味を示すのは自明の理。
何をする気だ、と内心で頭を抱えるオルヴァーの前に現実はかくも突きつけられた。
シキミともう一人知らない女を連れたアリシアが大手を振って戻って来たからだ。もう説明をされなくても分かる。クエストに連れて行くつもりなのだろう。
朝の忠告が嘘だったのかと疑うような事態を意に介した様子も無く、アリシアが口を開く。
「ごめんごめん、遅くなった! で、コイツ等が今回の追加人員な。相談室の管理人ことシキミと、その友達ベティだ!」
もう一人の女はベティか。やっぱり全然知らない人物だった。どこかで見た事のあるような顔だが。何故だかスッと記憶出来そうな顔と名前を一旦覚える。
本当は今すぐにでも追加人員など要らないと言ってリリースしたかったが、クエストの内容を知らないので追い返す訳にもいかない。なるほど。流石は長らくパーティを組んでいるだけあって、アリシアは強かだ。
「追加人員……。まあ良いでしょう。僕達の紹介は要りませんね? それで、本日はどんなクエストを受けて来たんですか、アリシア?」
「ルグレ、お前こういう屋敷好きだったろ? 何か大きいお化け屋敷の調査クエストだよ」
「広い場所で4人では手が回らないから、追加人員を連れて来たと?」
「そんなとこ。報酬もなかなかのもんだし、これなら6人で割ってもそれなりの配当になるだろ」
そう言って胸を張るアリシアの横で、何故かシキミが顔を青ざめさせている。少し考えた相談室管理人は恐る恐るといった口調で訊ねた。
「え、待ってアリシアさん。それって依頼人は……サイモンさんなんじゃ……」
「お? よく分かったなシキミ。依頼人はサイモンだ」
「あああ、やっぱり!! あんのクソ聖職者モドキが!!」
急に激昂するシキミに視線が集まる。情緒不安定か。しかし、強気な発言とは裏腹に彼女の顔は青いままだ。
彼女の友人というベティがやや心配そうな顔をした。
「シキミ、顔色悪いぞ。今日は止めといた方が良いんじゃないか?」
「いや、私の顔色はこの後起きかねない惨劇を予想したら青くなっただけだから……。あ、でもこのメンバーなら何にも問題無いかも……」
「このクエスト、何かあるの?」
「多分これ、お化け屋敷とかじゃなくて普通に魔物屋敷になってるだけだから、ちゃんと武装していった方がいいんじゃないかなー」
そうなのか、とあっさりシキミの言い分を信じたアリシアが笑う。
「依頼人がサイモンの時点で焦臭いクエストだとは思ってたけど、そうか、魔物屋敷か。やべぇ魔物が出たってサイモンに後で集ろうぜ。報酬増やして貰おうっと」
「それはいいですが、よく魔物屋敷なのだと断言できましたね。シキミさん」
ルグレの双眸がきゅっと細くなる。興味を持ち、相手に狙いを定めた時の癖だ。仕方が無いので、黙って事の成り行きを眺めていたオルヴァーは助け船を出した。
「おい、良いからクエストに行くぞ。ここで立ち話してたってどうしようもないだろうが」
「はいはい。よし、行くぞ野郎共!!」
行き先をちゃんと調べて来ているらしく、アリシアが意気揚々と先頭切って歩き出す。溜息を吐きながら、オルヴァーもまたその背を追った。