07.強めの持論
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「まるで探偵ごっこをしているみたいだね!」
「楽屋の回りをグルグル回っているだけだろ」
所変わって楽屋近く。見回りのように周囲を彷徨く私達は、特に何の発見も無いまま足を止めていた。作戦としては楽屋内部に侵入した犯人をアリシア達が捕らえ、これを証拠とし、私達は残党の処理となるのだが――
「そもそも、楽屋付近で逃げる手引きをする人材を用意できる程、犯人グループって大所帯なの? リリカルのライブを中止するのが目的なんだっけ? 殺人未遂な話なんだっけ?」
「あんまり深く考えちゃ……駄目だと思う」
「そんな馬鹿な」
シーラの言葉に項垂れる。もしかして、真面目に取り合うような内容ではなかったのではないか?
しかし、サツギルゲーム内では意味不明なイベントも数多くある。ライター変わったの? と聞きたくなるレベルでだ。今回はそういうイベントだったのだろう、多分。否、そうであって欲しいものだ。
悩んでいると、私と話をしていたシーラがトコトコとリリカルの方へ歩いて行く。先程までアイドル様はオルヴァーと会話をしていたのだが、それはもう終わったようだ。結構な無邪気さでアイドルへ質問をぶつけるシーラをハラハラと見守る。
リリカルは割とシビアというか、共感性に欠けた事を口にするので子供の輝かしい夢が粉砕されないか心配で堪らない。
「おい、犯人とやらは本当に現れるのか? 何も起きなさそうに見えるぞ」
手持ち無沙汰となったオルヴァーが、今度は私に向けて訊ねてくる。せっかちというか、こんな彼にとってみれば平和なクエストなどほとんど受けないせいだろう。かなり苛立っているのが見て取れる。
「うーん、私には分からないけれどリリカルがそう言うなら、起きる……かもしれない」
「ふん、どうだかな」
「それより、私達はここで止まってて良いのかな? 裏口の近くにはいるけど、表口も一応人が出入り出来る場所だし」
「最悪、遠い方の出入り口に現れてもどうせ臭いと音で分かる。問題は無い。よしんば、中へ侵入できたとしてもアリシア達がいるだろうが。見逃した所で何の問題も無い」
仕事終えて中の2人がのんびりしていたら結果は分からないだろうが、とも思ったがサツギルきっての武闘派パーティ。そこはそれ、ただの犯罪者予備軍に後れを取る程油断はしないだろう。
この面子だと何があっても犯人を取り逃がさなさそうで何よりだ。ところで私は帰っていいだろうか?
――と、私以外の3人が不意に動きを止めた。
リリカルが楽しげに発言する。
「半径20メートル以内に5人組の生体反応を感知したよ! 後発隊かな!」
「えっ!? そんな急に? 20メートルって行ったら……全力疾走ですぐじゃん! もう、目の前と言って差し支えない!!」
慌てる相談員の私とは裏腹に、シーラやオルヴァーは既に戦闘準備を整えている。相手の力量が分からないからか、オルヴァーは例の巨大武器は留守番だ。本当にただの人間だったら大剣の一撃で胴体が真っ二つになりかねないので仕方が無い。
私はと言うと、如何にも後衛ですと言わんばかりに後退し魔道書を装備する。いくら師匠が凄い人達で一通り剣技を習っているとはいえ、剣で戦うと付け焼き刃素人の私では自分が大怪我するか、相手を再起不能にしかねない。
その点魔法は良い。威力がかなり低い魔法であれば、敵の足下に撃つだけで攪乱にもなり、余程エグい角度で人体を狙わなければ恐ろしい事態にもならないだろう。威力が目に見えているのはやりやすい。
緊張しながら、一団が目の前に現れるのを待つ。程なくして、現れたのはリリカルが検知した通りの5人組。何と言うか統一感の無い一団だった。
1人はサラリーマンのようにきっちりとスーツを着込み、1人は夜中の街にいそうなチンピラ。1人は農作業をしているような恰好だったり――とにかく、彼等の間の統一感は皆無。ついでにお互い、友達というような空気感でもない。
というかこの人等、アイドルをどうしようとしてこの人数で集まったんだ? ここに既に5人、楽屋への侵入者もいるのでそれも合せる事になる。
人とはかくも恐ろしい生き物だ。戦々恐々としていると、オルヴァーが依頼人であるリリカルに確認する。
「おい、コイツ等を伸せばいいのか?」
「うん! 大怪我なんかはさせないようにお願いね!! まだ未遂だから、後で訴えられて面倒な事になるのも困るしっ!」
「この人数なら最早何をしても正当防衛になりそうな気もするがな」
「アイドルは外聞とイメージが大事! そういう事実が客足を遠ざけてしまうし、まあ、私はある意味替えの効く存在ではあるからねっ! まだスクラップにはなりたくないや!!」
「何を言っているんだ。……おい、そこの5人組。止まれ!」
勝手知ったる一般人です、という体で通り過ぎようとした一団をオルヴァーが呼び止める。あまりにも堂々としている連中なので、一瞬関係者なのかと錯覚してしまう程だが他でもないリリカルからゴーサインが出ているのだ。問題無いのだろう。ドールである彼女が関係者と無関係者を間違えるとも考え辛い。
通り過ぎる訳にはいかないと悟ったのか、5人組が足を止めてこちらを見る。他人を装うとしていたからか、彼等は初めて私達をまじまじと視界に入れたようだった。
引き攣った声を上げた男の一人がリリカルを指さす。
「こ、コイツ!! リリカルちゃんじゃないか!? いや、絶対にそうだよ、見間違えるはずがない!」
一人が声を張り上げると後は一瞬。すぐにアイドルだと気付かれてしまったが、特に問題視する事は無いようでリリカル本人は胸を張ってアイドルスマイルを浮かべている。それは――あまり良い対応ではないのでは?
案の定、男の一人が見当違いの持論を並べ始めた。
「リリカルちゃん自身が僕達を出迎えてくれたんだ! やっぱり、事務所が悪い、事務所が!」
「何言ってんだ、リリカルちゃんは俺に会いに出て来てくれたんだよ!!」
「自惚れないで頂けますか、私の為に決まっているでしょう?」
――この人等、何しに出て来たんだ……。