6話 大海を征するもの

13.お菓子作戦


 だけどそれと同時にモヤモヤと嫌な感情が芽生えるのも確かだ。
 そんなに手を出し難い相手ならサツギルゲーム時にオルヴァーも攻略しておけばよかった、という思いと、恐らくはモブのキャラクターが攻略キャラクターに絡んでいるという地雷についての理不尽感。まさに地雷女とは私の事だが、創作物をプレイするにあたり外せない前提条件はきちんと踏まえておくべきだろう。金銭をドブに捨てないようにする為にも。

 ――と、ここまではあくまでゲームプレイヤーとしての感想だ。
 このゲームの世界を現実のものとして生きる私としては、オルヴァーの発言に納得は出来ない。どう考えたって彼の性格上、恋愛が上手とは言えないのだ。この先、彼が一生オクルスさんとやらを引き摺って生きないよう、いっそ略奪愛に落ち着くか告白して玉砕するか、どちらかに決めて欲しいのが心情だ。
 人は絶望しないからこそ希望を持てる生き物。オルヴァーの言う通り、オクルスが現在の彼氏一筋であれば万に一つも恋が成就する可能性は無い。が、億が一についてはあり得るとも言い換える事が出来る。
 そんな宙ぶらりんの希望を持つくらいなら、叶うか玉砕か、ハッキリさせた方が良いはずだ。

「――まあ、取り敢えずプレゼントの話だったよね」

 上記の考えについてオルヴァーに進呈する為にはある程度の信用が必要だろう。せめて友達、または頼れる相談室の管理人くらいにまで昇格しなければ他人が色恋沙汰に首を突っ込むなと一蹴されてしまう。
 であれば、オルヴァーを信用させる為、最初にすべき事は彼自身の意思で相談に来ているプレゼント問題を完璧に解決せしめる事。この贈り物で事態が急転するかもしれないし、一先ずの動きはイベントを乗り切ってからになるだろう。

「代表的なのは可愛いお菓子とかかな。食べ物は食べれば無くなる訳だし、他人行儀にはなるけど贈り物としては凄く一般的だよ」
「菓子……」
「その人、どんなお菓子が好きとか知らないの?」
「何でも食べるな。魚より、動物の肉が好きだとは聞いた事がある」
「そうなんだ。じゃあ、暇がある時に食べてねって事で上等な肉を渡すのもいいんじゃない? ただ、食べ物を渡すなら注意する事が」
「何だ」
「他人行儀過ぎるって事。定番だからこそ、何かのお礼とか、そこまで親しくない人への贈り物として優秀なんだよね。菓子折ってあるでしょ? 非礼の詫びとかに使われるくらいのド定番だから、友達の記念日とかには適さないかもしれない」

 例外はあるが、親友から誕生日プレゼントに菓子だけ渡されると何とも言えない気持ちになるのと一緒。この食べ物作戦は大事でフランクな友人関係にある人物に渡すと顰蹙を買う恐れがある。しつこいようだが、勿論例外はある。
 私の説明を正しく理解したオルヴァーは小さく溜息を吐いた。

「なら、お前の言う通り奴から苦言を呈されそうだ」
「そっか。なら、食べ物はNGだね」

 何か渡す事は相手方に伝えているのか。口を滑らせたのかもしれないし、そもそもこの程度の情報なら流した所で問題無いのかもしれない。
 ともあれ、食べ物関連が駄目なら今回はこれ以上、進展しそうにはない。何せ、私はオクルスという人物について欠片も知識が無いのだ。それこそ星の数程もあるプレゼント候補の中からオルヴァーの提示した条件に見合う物を選び出すのは、砂漠で1粒の砂金を見つけ出すのに等しい所業。
 仕方が無いので、本来はあまりしないのだが私の方から相談終了を切り出す。

「食べ物が駄目なら、ちょっと今すぐに何か良いアイディアは思い付かないかな。情報も整理して欲しいし、もっと他に話せる事が無いか確認してから出直して欲しい」
「良いだろう。考えておく」
「ごめんね、役に立てなくて」

 小さく溜息を吐いたオルヴァーは早々に相談室から出て行った。あの感じだと、恐らくまた来るだろう。