6話 大海を征するもの

06.贈り物騒動


「話は変わるけれど」

 これから起こりうる事について考えていたら、他でもないシーラが話題の転換をしてきた。彼女は実にさっぱりとした性格の持ち主だ。嫌な予感がする、という事以外分からないのであればそれを論じる意味など無いと決断したのだろう。話題を振っておきながら、その話題はもうどうでもいいようだった。
 私もまた彼女の態度に便乗する。分からない事を考えたって、分からないという事しか分からないからだ。

「どうしたの?」
「その……記念日に送るお祝いの贈り物について……。ねえ、どうするの? オルヴァー」
「クエスト中に暢気だな」
「でも、手ぶらじゃマズいよ。ルグレはともかく、アリシアは……かなり楽しみにしているみたいだし……」
「奴はそういうのが好きだからな」
「手ぶらでガッカリさせたくない……。あと、いつもお世話になっているから……あわよくば、感謝の気持ちを伝えたい……」

 ――何だかほっこりエピソード始まったな。
 部外者の私は口を閉ざす。今までゲームのプレイヤーだったのだ。キャラクター同士の会話はご褒美である。そもそも、ゲームとは基本的にプレイヤーは蚊帳の外。3人でいるにも関わらず、2人で話し込み始めても何とも思わなかった。

 ともあれ、何かを考えるように口を閉ざしたオルヴァーは首を横に振る。考え事をしていたようだが、良い案は思い浮かばなかったようだ。

「贈り物か……」
「故郷にいた時は、プレゼントを買えるようなお店も無かったし……。贈り物は食べ物か、珍しい薬草とかで済んだけれど……」
「それは間違いなく顰蹙を買うな」
「だってあの人達、薬草なんて要らないだろうからね……。でもほら、ギルドの回りには小物を売っている店とかもあるし……やっぱりちゃんとした物を選ばないと……」
「まさか生活が便利になった弊害がこんな所で現れるとはな」

 ここで両者は沈黙した。どうやら彼等の文化圏では、贈り物は一般的ではないようだ。であれば、同郷出身で話をしても行き詰まるのは必至。必然的に、それまで黙っていた私へと良案の提出が求められる。

「ねえ、シキミはどう? 何か良い方法、知らない?」
「そもそも、何の記念日なんだっけ? それによると思うけれど」
「私達が、4人でパーティを組んだ記念日……。アリシアが飲み会をしようって」

 ――確か、アリシアは自由奔放な4人のまとめ役だ。4人共、一般常識に疎いが最もトラブルを起こさないのはアリシアのみだからだ。
 一見すると常人に見えるルグレは重度のアリシア教。彼はいつ如何なる時でも彼女を優先するという脳構造をしているので、全員のまとめ役には向かない。

 そこまでゲームの情報を掘り返したところで、私は問いの答えを口にした。

「みんなで祝い品を持ち寄るって何かいいね。誰に渡すつもりなのか分からないけれど、ギルド近くにあるアイテムショップなら、確か女性の使う日用品で可愛い物が揃ってたはず」

 一先ず無難な答えを返しておいた。正直、彼等のコミュニティに関して私が口を挟める事は無い。結局の所、常日頃から行動を共にしている彼等の感性の方が、私のアドバイスなどよりずっと喜ばれるはずだからだ。

 しかし、私の無難なアドバイスはセカンドインパクトによってお流れとなってしまった。放った言葉を吟味する暇も無く、オルヴァーの目付きが変わる。

「何でも良いが、クエストの時間だ。その話はまた後にしろ、いいな。シーラ」
「……分かった。頑張る」

 嫌なタイミングで浜辺に魔物が現れた。仕方無い、元々はクエストの為にここにいるのだ。お喋りの時間は終わり、お仕事の時間が始まった。それだけの事である。

「あれ、この魔物……」

 魔物に意識を向けたところで、首を傾げた。眼前にいるのは、絶対に浜辺などには現れるはずもないモグラの魔物だ。見た目通り、モグラのような生活を送るのでしっかりした土がある場所を好む。間違っても砂しかない浜辺にモグラが居るはずもない。
 ――これは……突然変異? それとも、何か別の理由が?
 考えても出て来ない。いや、喉元まで何かが出掛かっている気がする。するのだが、この状況下にいるからか確信に近付けない。ただ、絶対に取っ掛かりとなる情報を持っている気がするので、これが終わってからゆっくりと考えよう。恐らくだが、このモグラを退治したところで今回のクエストは終わらないと思われる。