5話 私弱すぎ!強化大作戦!!

07.1日目、魔法レッスン


 助けを求めるべく、ベティ達に視線を送る。しかし、彼女等は彼女等で顔を見合わせていたので私の視線には気付かなかった。パートナー同士の無言のやり取りは美味しいが、今はそれを堪能している場合では無い。
 そんな思いが通じたのか、不意にベティがこちらを見た。良い笑顔で親指を立てる。あっ、嫌な予感――

「シキミもやる気っぽいぞ、デレク!」
「ああ、そうだな! こんな機会はそうそうない。逃す手は無いだろう」

 圧倒的逆効果。
 全く私の意思が伝わっていない事に愕然とするも、微妙に正論を並べ立てられて反論の機会もまた失う。なおもデレク達は言葉を続けた。

「普通に弟子入りするなら莫大な月謝、もしくは才能が必要だし……。むしろ私が剣の稽古を付けて欲しいくらいだよ。いいなあ、シキミ」
「ギルド在中の師範代とはいえ、やっぱりある程度、出来る奴にしか教えられないしな」
「1ヶ月で私より強くなってたりして!」
「本当にあり得そうで笑えないなあ」

 ――ダメだ断れない!!
 私の為を思って色々と考えてくれている彼女等を前に、「いや普通に辛そうなんで嫌です」とはとても言えなかった。完全に私の我が儘のような流れになってしまう事だろう。

 しかし、断れないと悟った事で私の下心が急速に芽吹き始める。
 少しでも強くなれれば、私に対して好印象を一片も持っていない最推し、オルヴァーとお近づきになれるかもしれない。恋愛対象としてゲームのように攻略するつもりは毛頭無いし、私にそんな才能があるとは思えないが一緒にクエストへ行けるような仲は目指せるものならば、目指したい。
 強くなる事で彼の微動だにしない友情値を僅かにでも上げられたならば。折角、恋い焦がれた世界に転生した意味があるというものではないのか。

 半ば無理矢理に納得する形で、私は師範代達の提案に乗っかった。

「う、うわあ、光栄だなあ! 是非、2ヶ月間みっちり私の事を鍛えて下さい!」
「あらあら、そう言うと思っていたわん。こちらこそ、よろしくね」

 うふふ、とラヴァが目を眇める。目がちっとも笑っていないあたり、この謎の勝負でオスカーを蹴落とす気満々だ。
 一方でオスカーはそんな彼女の様子になど気付かず、脳天気に訊ねてくる。

「では、剣と魔法どちらから学ぶ?」
「交互に受けようと思います。私は決して物覚えが良い方ではないので、最初にレッスンした教科は後から忘れている可能性が……」
「むむ、それでは力量を正しく測れんな。では、1日ずつ交互に鍛えるとしよう。初日はどちらにする?」
「えーっと、私はどちらからでも結構ですので先生方で決めて頂いて結構です」

 オスカーがラヴァの様子を伺う。彼女は一瞬だけ考え、グーの拳を突き出した。

「普通にジャンケンか何かで決めればいいんじゃないかしら?」
「それもそうよな。では、勝った方が初日だ」
「ええ」

 ジャンケンの結果、初日はラヴァのレッスンを受ける事になった。よろしくお願いします、と頭を下げる。
 と、不意にデレクが口を開いた。

「シキミ、俺達は端の方を使うからラヴァさんと真ん中辺りで練習していいぞ。そもそも、お前を鍛える為にここも借りた訳だし」
「あらん、良い子ね。遠慮無く使わせて貰うわ」
「では儂は撤退するとしようぞ。また明日だな、シキミ」

 そう言うとオスカーは手を振って出て行った。日時とか何にも決めていないが大丈夫か?

 ***

 仕切り直して。

「それじゃあ、楽しい楽しい魔法のレッスンを始めましょう」

 ラヴァ先生はそう言うと、やはり妖艶に微笑んだ。三児の母だとはとても思えない色香に充てられつつ、私は頭を垂れて挨拶をする。

「よろしくお願いします」
「うふふ、礼儀正しいのねぇ。うちの子達とは大違いだわぁ」
「いえいえ……」
「それじゃあまずは、アナタがどのくらい魔法を使えるのか確かめなきゃ。使っている魔法道具を見せて頂戴な」

 ――ヤバい、入門用の超初心者向け魔道書しか持ってない。
 というか、それすら満足に使いこなせていない。内心で冷や汗を掻きつつ、出来るだけ自然に、さも当然かのようにいつも使用しているアイテムを取り出してみせる。

 魔法の天才である彼女がそれを見た事は恐らくないのだろう。やや首を傾げたラヴァは私の持っていた魔道書に手を伸ばしてきた。

「何かしら? ちょっと見せてくれる?」
「え、ええ。どうぞ」

 ラヴァはパラパラとそれを捲るとふふ、と無邪気な笑みを浮かべる。

「入門書じゃない。懐かしいわねぇ、もう何百年も前に卒業してしまったわん」
「そうでしょうね!」
「アナタの魔法レベルは今現在、このくらいって事かしら。これは教え甲斐がありそうねぇ」

 果たして教え甲斐がある、という言葉で私のドブ魔法は改善されるのか。恐ろしい目に遭うのではないかと、今から不安が拭えない。彼女のお子様達は皆優秀な魔道士でもある。
 私のような、魔法を最近使い始めたド素人など見た事すらないだろう。本当に私なんかに魔法を基礎から教えてくれるのだろうか。段々心配になってきた。