06.師範代達のお遊び
唸ったデレクが更に、今までの出来事を振り返って言葉を紡ぐ。
「俺が見ていた戦闘だけで評価すると、シキミの持っている剣は飾りだな。使っているところを見た事が無い。魔法はそこそこ撃つみたいだが、狙いは散漫だし……」
「私良いところ無さ過ぎるのでは?」
「ううん……」
ぶっちゃけ戦闘下手クソ、ギルドに籠もってた方が良いぞと言わないあたりデレクは普通に優しく良い人だ。サツギルプレイヤー達の心を鷲掴みにしたパッケージセンターの実力というものだろう。
「やっぱり私と手合わせしまくるしか方法は無いんじゃないか? 説明したって伝わるものじゃないだろ、こういうのって」
「そもそも原理が分かっていないシキミに、身体で覚えろが通用するのか……?」
「私の物覚えは周囲が引く程悪いよ。それに、運動神経もぶっちゃけあまり良くないかもしれない」
話し合いは平行線を辿っている。
しかし、終わらない会議に終止符を打ったのはここにいる誰でもない、意外な人物達だった。
「あらあらぁ? 良いところに良い逸材がいるんじゃないのかしらん?」
「うむ、実にやり甲斐のありそうな娘よな」
――師範代組。ラヴァとオスカーだ。
ラヴァの方は何か良いことを思い付いたかのように妖艶な笑みを、オスカーは良い案だと言わんばかりに弾んだ声を上げている。
バラバラの2人だが、わざわざ私達の元へまでやって来て視線を向けているのは――恐ろしい事に私にである。
言わんとする事を本能的に理解してしまい、硬直する。彼等は確か、丁度良い弟子を捜しているはずなのだ。それは断じて私では無いはず。もっと出来の良い、覚えの良い者を選出すべきだ。
しかし、ここで私は己が過ちに気付いてしまう。
手に持った、通常ではあり得ない装備。これはラヴァとオスカーの興味を惹くのには十分過ぎる程に十分だ。相談室での出来事をすっかり忘れていた私にこそ落ち度があるとも言える。
何のことだか分からないベティ達が無邪気に喧嘩を止めた大人達を見上げ、首を傾げた。
「どうかされましたか?」
「うむ! 実はだな――」
オスカーの話はとにかく長かった。5分で済むはずの話を20分かけて話す手腕。ある意味神懸かった才能と言える。
ともあれ、ご老人の話を最初から最後まできちんと聞いた真面目青年・デレクは「そんな企画を考えていたんですか」、と随分前向きな発言をした。自分より長く生きたいい大人が、まさか剣と魔法どっちが強い論争で揉めているなど露にも思わないのだろう。彼はどうか、そのままで居て欲しいものだ。
ともあれ、全てを聞いたデレクは申し訳無さそうに首を傾げている。隣のベティも「は?」と聞こえてきそうな顔をしているのが師範代達には見えているだろうか。
「すいません、えぇっと、つまりは?」
デレクの端的な問いにオスカーは無邪気な笑みを、ラヴァは妖艶な笑みを浮かべた。
「つまりは、彼女を妾達で鍛えたいという事よん。持て余していたのでしょう? 悪く無い話だと思うのだけれど」
「そういう事だ! これで儂等の目的も達成出来る、何ら問題は無さそうだ!」
やはり、相談室で私自身がした提案を私自身の試すつもりのようだ。そこに悪意や何らかの感情は窺えないので、相談室にいた私の存在を彼等は忘れているらしい。同一人物だとは欠片も思っていないようだ。
ベティがやはり訝しげな顔をして話を前に進める。
「いや、それってどういう日程でやるつもりなの? シキミも色々別件で仕事あるし、貴方達のお遊びに長時間付き合ってられないと思うぞ」
「あらぁ、そうなの? では、1ヶ月ずつ。合計2ヶ月で魔法も剣も人並み以上に使えるよう教育するわ。ただし、2ヶ月後に使用感と使用頻度について感想をみっちり聞かせて貰うから真面目にやって頂戴ね」
「ちなみに儂等のワガママだからな! 金を取るつもりも無いし、必要な道具などもこちらで持ちで揃えると約束しようぞ。それに、こちらは常日頃から割と暇だ。生徒の都合に合わせて良いぞ」
――アンタは本命の弟子が何人かいるだろ!
オスカーのあんまりな一言に思わずそんな暴言が喉から飛び出しかけて、慌ててそれを呑込む。成る程、私はあくまでゲスト枠であり身内扱いの弟子とは違うという事か。
いや、やるなんて一言も言っていないし出来れば辞退したい次第ではあるが。