05.ド素人の振る舞い
「こっちも始めるか」
真ん中よりやや入り口よりの場所に陣取った私達だったが、話し合いが決着したのを見て好戦的にそう呟いた。戻って来たベティが訊ねる。
「どういう形にする? 私とシキミで組んで、デレクとバトるか?」
「いや、一対一でやろうと思う。俺は側でシキミの動きを見ているから、取り敢えず模擬戦をやってみてくれないか」
「そうだなあ。クエストやってる時は、シキミがどういう立ち回りしているのかじっくり見る機会も無かったし、丁度良いかもしれないな!」
本人の意思そっちのけで話が進む進む。しかし、戦闘ド素人の私が口を挟んだところでどうにもならないので黙って事の成り行きを見守るのみだ。
そして話し合いはあっさり決定したようだ。ベティが元気よくこちらを見る。
「よし! じゃあ私が相手をするから、どこからでも掛かって来なよ、シキミ!」
「掛かってくるも何も……。そもそもどう動けば良いのか……」
何気に対人は初めてかもしれない。今までの相手はクエストで討伐をしなければならない魔物などで、相手は人じゃなかった。
何をどうしたら良いのかさっぱり分からない。まずは何をするべきなのか、模擬戦でしてはいけない事とは何なのか。新しいバイトを始めた時の心持ちに似ている。
一先ず手の内にいつも使っている――というか取り敢えず所持している――武器を持つ。左手に魔道書、右手に量産品の安物剣。何てことだろう初期装備ダブルセットである。
それを見たベティが好戦的に笑った。彼女は武闘派ヒロインなので、個別シナリオにもよるが基本的にはその性格のままストーリーを突き進む。今回もデレクルートに入っているようなのでそのままだろう。
ダブレットで確認していないが、ベティのレベルは差ほど上がっていなかったはずだ。とはいえ、ド素人である私に果たしてレベルという目安が適用されるのかは甚だ疑問ではあるが。
とはいえ、師事して貰うのだから相応のやる気は見せるべきだ。ギルドでの人権は強さで決まる。いつまでもベティ達に負んぶに抱っこ状態では人権もクソもあったものではない。
私は気合いを入れ直し、強く持った事なんて殆どない剣の束を握り締める。安物だからか、みしっ、と嫌な音がした。
爽やかな笑みを浮かべるベティが意気揚々と片手剣を構える。それなりに良い一品なのだろう。ゲーム内の中盤から終盤までで買える割とお高めの剣に似ている。というか、恐らくそれだ。
「来ないなら私から行くぞ!」
「えっ」
元気にそう宣言したベティが地を蹴る。そもそもの筋肉量が違うのか、陸上部のような踏みだしで一気に距離を詰めてくる。混乱した私は思わず動きを止めた。どうしろって言うんだ。
ただただ呆然と立ち尽くしていると、目と鼻の先で剣先がピタリと止まる。困惑した顔のベティが首を傾げていた。
「いやいやいや、ボーッとしてないで動こう、シキミ!」
「ど、どこにどう動けば良いのか分からなくて……」
「マジで?」
結構難しいかもしれないな、とデレクが苦笑しながらそう言う。彼の苦笑は困り顔を隠す為のものなので、実際はかなり困惑と困難さを感じている事だろう。大変申し訳ない。
最早、構えを解いたベティが首を傾げながら訊ねてくる。
「それってさ、立ち回りどころか何をすればいいのかも分からないって事?」
「そうだね……。今まで何かと戦ってきた事なんて一度も無いし……」
「マジのド素人な訳か」
「ぐうの音も出ない」
「これは骨が折れそうだな」
デレクが嫌に真面目にそう言った。