5話 私弱すぎ!強化大作戦!!

03.友人達からのお誘い


 ***

 ラヴァに続きオスカーが来室後、相談室には平和な時間が流れていた。やれペットの名前がどうだの、友達と喧嘩をしただの、彼氏が浮気をしているだの――
 比較的、相談と呼べる代物だったと言えるだろう。

 昼食を食べ終え、食器を食堂に返すべく手に取る。ちなみに今日のランチはベーコンのポテト和えだった。不思議な食感だったとだけ述べておこう。

 ――コンコン。
 不意に相談室のドアがノックされる。返事をするより早く、外から聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。

「シキミ! ちょっと今空いてる?」
「空いてるよ」

 ベティの声だ。急いでそう返事をすると、2人組が入ってくるのがカーテン越しに見えた。顔も割れている事だし、と勝手にカーテンを開ける。予想通り、ベティとデレクが仲睦まじく立っている。
 何か用事でもあるのだろうか? 私は僅かに首を傾げながら、ベティの言葉を待った。

「よう、シキミ。ちょっと外に出よう」
「何かクエストでも誘ってくれるの?」
「いやいや、今日はさ、シキミを鍛えようと思って。戦闘慣れしてないだろ? 私達と楽しくトレーニングしようよ」
「おおー、それは普通に助かる」

 ベティの指摘通り、私は平和な現代社会に生きていたので戦闘なぞと言われてもどう立ち回ればいいのか全く分からない。現状ではお荷物にしかならないので、多少なりとも身体を鍛える努力は必要だろう。努力したところで、身体能力が向上するのかは甚だ疑問ではあるが。

 ***

 ギルドの裏手には今回のように訓練をしたり、或いは野外でバーベキューをする時のようなフリースペースというものが存在する。ギルドに所属しているメンバーが予め申請を出す事で使える施設なのだが、高頻度でその日に申請を出して使える場所だ。
 いやだって、訓練するならクエスト中の方が効率が良いし、パーティなら専用の施設を予約した方が楽しめる。つまりフリースペースと言う名の広い空き空間なのだ。更に言うと野晒し状態。雨の日は漏れなくほとんどの目的で使えないのだから驚きだ。

 しかし本日は晴天。ベティのお誘い通り、初心者を鍛えるのに持って来いの日だろう。

「相変わらず、誰も使ってないんだね。フリースペース」
「いや、俺達の前に1組借りてるメンバーがいるみたいだった。今日は意外と混んでいるのかもしれないな」

 デレクが神妙な顔をしている。使用日が被るなんて珍しい事もあるものだ。つまり、その人達の使用時間が終わった後が、私達の使用時間なのだろう。予約制度がここで生きてくるとは、世の中何が起こるか分からないものだ。
 でもさ、とベティが首を傾げる。

「今日って近くでガス爆発か何かの騒ぎが起きてて、メンバーの救援が得意な連中はそっちに駆り出されてんだよね。よく、使用日が被ったなとは思うよ」
「い、いやいやいや! ベティ達はそっちに参加しなくていいの!?」
「私達は救援には向かないからなあ。行っても邪魔になるだけだよ」

 そういえばそういうパラメーターもサツギルというゲームの中に存在していた気がする。ベティはステータスや最初の職業次第で救援向きにも育てられるタイプのオールラウンダーだが、このベティはそうではないらしい。
 ちなみにデレクは全ての能力が平均値なので、パートナーであるベティが行くと言えば平然と付いて行く事だろう。彼はゲーム初心者に優しい男なのだ。

 そうこうしている内にフリースペースに通じる出入り口に到着した。どうやら前の使用者達がまだ居るらしく、外からは話し声が聞こえる。離れているので何の話をしているのかまでは分からないが。

「交代をお願いしに行こう」

 デレクがそう呟いてドアを開けた。視界へダイレクトに入って来た光景に、私は息を呑む。

 そこには先程、嫌と言う程相談を受けた魔道士と剣士の姿があったのだ。

「あれっ、オスカーさんとラヴァさんだ。何やってんだろ、あの人等……」
「仲が悪いと聞いていたが」

 ベティとデレクの言葉さえ右から左へと抜けて行く。犬猿の仲であるにも関わらず、何故また大喧嘩になってもどうにかなる場所で、しかも結構な声量を発しながら会話しているのか。
 しかもドアを開けて気付いた。この人達は会話をしているのではなく、怒鳴りあっているのだ。彼等が陣取っている場所は出入り口から遙かに離れたフリースペースのど真ん中である。何を揉めているのか、それが分かるからこそ私は早々に撤退を決め込みたくなってしまったが、そうも行かないようだ。