02.巻き込まれ人捜し
「人は多い方が見つけやすいだろう? 君はギルドのメンバーの事をよく知っているって評判だよ。俺達だけじゃ見つけられないんだ、頼むよ」
そう言って情に訴えかけてきたのはマルセルだ。切実なその言葉に嘘は無いのだろう。人捜しを頼む相手を間違っているのが玉に瑕だが、少なからず手伝ってあげた方が良いような空気感を醸し出している。
とはいえ、人が多い方が見つかりやすいという謎理論については首を傾げざるを得ないが。人一人増えたから何だと言うのだ。
ダメ押しと言わんばかりにクレールが力強く言葉を紡ぐ。彼女の堂々たる態度を見ていると、何故だかそうしなければならないように感じるのだから不思議だ。
「勿論、見つかれば報酬は払うわ。こんなクエスト、ギルドには申請出来ない。メンバーの事をよく知ってるって噂のアンタが頼りなのよ」
「うーん、まあ、そこまで言うなら……。私の本業、相談室の運営だけど」
「マスターに難癖付けられたら、私達から言っておくから」
「ああもう、仕方無いか……」
小さく溜息を吐いて、隣の扉から相談者2人と対面する。私にしてみれば彼等は初対面では無いが、その逆は別だ。
「初めまして。まあ、やり取りを聞いていたら分かるとは思うけど、俺はマルセル。そしてこっちがクレールだよ。よろしく」
「シキミです、どうぞよろしく」
自然と差し出されたマルセルの手を握り返す。女性のようにさらっとした手触りだった。やはり格好に気を遣う男は違うらしい。
「それじゃあ、捜しましょうか」
「クレールさん、アテはあるの? 最後にアベルさんがどこへ行った、とか」
問いに対し、マルセルが応じる。
「俺がクエストを受けた事を伝えに行った時は丁度、隣街の酒場にいたかな。捜すのに昨日時点でも苦労したんだよ。どうして彼はいつも、隣の町にまで行って酒盛りをするんだろうね?」
「さあ、趣味なんじゃない? アイツ、変な所に拘りあるし」
――昨日は隣街の酒場にいたのか。
その理由は彼の個別シナリオで明らかになっている。単純に行きつけである事と、独りで黙々と酒を飲みたい時に向かうのだ。何か嫌な事でもあったのかもしれない。
しかし、偶然にもマルセルとクレールがアベルに相談する事無く、クエストを決定してしまった。既に飲んでいたアベルは途中で切り上げる事も出来ず、そのまま泥酔してしまった可能性がある。
基本的にアベルはクエストの前日には酒を飲まないが、一滴でも飲んでいると歯止めが利かないらしい、ともシナリオで語っていた。自制心はそう強くは無い。
「その隣街の酒場は捜したの?」
「捜したよ、一番にね」
「そうなんだ。じゃあ、聞き込みの為、もう一回その酒場に行こう。えーっと、よくその酒場で酒盛りしているんだよね? だったら、酒場の主人と知り合いかもしれないし。聞いたらどこへ行ったか分かるかも」
「成る程、それもそうだ。そこまで気が回らなかったから、主人には話を聞いていないな。早速行ってみようか」
隣街へ移動するべく、一行は相談室を後にした。
***
――本当に隣街にまで同行する事になってしまった。
マップ上には存在しているが、本当に何も無い町なのでクエストもしくはアベルの個別シナリオくらいでしか訪れない場所。周囲を見回すと、どことなくくたびれているというか、寂れた雰囲気が強い。少しもの悲しささえ感じる程だ。
「アベルさん行きつけの酒場はどれかな?」
「あれよ。というか、この町に酒場は一カ所しか無いわ」
クレールが白く細い指で一点を指す。劣化して何と書いてあるか分からない看板が下がった、一応は酒場らしく建物を発見。中から下品な笑い声が聞こえてきている。まだ昼間なのだが。
とても入りたくない空気感だったが、それをものともせずクレールが入り口へ向かう。一方で私と同じ気持ちだったであろうマルセルは、それを見ると慌てて彼女の背中を追いかけた。
取り残された私もまた、腹を括って酒場の中へ入る。むっとするようなアルコールの匂いが鼻孔を突いた。何てことだろう、真昼だと言うのに酔っ払いの巣窟だ。
しかし、幸いにも酔っ払い達は仲間内で楽しげにお喋りしているので私達に絡んで来る様子は無い。時折大声で笑ったりはしているが、騒音被害に目を瞑れば実に無害な酒飲み達だ。
そういえば、アベルのシナリオでもここで酔っ払いに絡まれるイベントがあったな。戦闘は無く、彼が気さくに説き伏せる事で暴力沙汰にはならず終了した、彼のコミュニケーション能力が垣間見えるイベントだったと言える。
意外にも足が速いクレールの背を追い、ようやっとカウンターまで辿り着く。何度か見たスチルの、渋い顔をした酒場の店主がキセルを吹かせていた。さて、彼はアベルの情報を何か持っているのだろうか。