06.相談料
全てを討伐し終え、墓地を見回す。僅か1時間で全てのゴーストが片付いてしまったようだ。夜中のクエストであった為、早上がり出来そうなのは純粋に嬉しい。
「おい」
「ひえっ……!?」
もう魔物がいない事を確認したオルヴァーから、鋭い視線を向けられる。思わず悲鳴を上げるも、関係無しに彼は言葉を続けた。
「これで貸し借り無しだ」
「え?」
「相談料。きっちり返したぞ」
「あ。は、はーい」
――ヤバいめっちゃ好き!!
こういうクールなところが大好きだ、と心中で絶叫する。内心で悶えていると、恐い顔をしたオルヴァーから釘を刺されてしまった。
「俺が相談室に来た事、他の連中には絶対に言うなよ」
「その点はご安心を! うちはプライバシーと個人情報保護観点から、他人の相談内容を勝手に話す事は無いんで!」
「どうだかな。口が随分と軽そうだが。まあいい、とっとと戻るぞ」
***
ギルドへ戻り、ロビーへ辿り着いた瞬間、私にとっては聞き覚えのある声が耳朶を打った。
「よう、お帰り。待ってたよ」
「……アリシア」
化けの皮パーティが一角、アリシア。人気の少なくなったロビーにて、行儀悪く椅子に座っている様子が異様に様になっている。美しい容からは想像も出来ないくらい、愉快そうに唇の端を釣り上げているが、それすらも美しい。
仲間の登場にオルヴァーは困惑したように眉根を寄せている。
「お前、こんな時間まで何してんだ?」
「つれないな。お前がトラブルを起こしているんじゃないかと思って、わざわざ帰りを待っててやったんだろ。もっと私の優しさに噎び泣いて喜べよ」
「はあ?」
状況を把握出来ていないような顔をするオルヴァーを差し置き、アリシアの美しい顔が悪戯っぽく歪んで、そして私を見た。
「大変じゃなかった? コイツ、雑魚は死ねみたいなところあっただろ。怪我はしなかった?」
「あ、いや、大丈夫です。仲良く討伐してきました」
「そりゃいい! 今日はトラブル起こさなかったみたいだな、オルヴァー」
「俺が毎回、トラブルを起こしてるみたいな言い方は止めろ」
「いやあ、ほぼ毎回マスターに報告しに行ってるだろ」
アリシアの言う通り、オルヴァーはシャッフル・クエストのトラブル常習犯だ。彼女の言い分は尤もだし、心配されるのも当然と言える。
「何も無かったようで何より。じゃあオルヴァー、私と帰るか? ルグレも外で待ってるけど」
「飲みにでも行くのか?」
「シーラを自宅に送り届けたついでに、ギルドに寄ったんだよ。私達は」
「成る程な」
合点が行ったように頷いたオルヴァーは少しばかり嬉しそうだ。やはり、仲間の出迎えで暖かい気持ちに、彼のような戦士もなるのだろうか。
不意に、アリシアがこちらを見やる。
「どう? お前も来る?」
「いえいえ。お仲間同士の集いにお邪魔するのもあれなんで、私は帰りまーす。お疲れ様でした」
邪魔者は撤退する事にした。しかし、私は内心でほくそ笑む。
今日はそこそこ良い1日だった。シャッフル・クエストのお陰とはいえ、あのオルヴァーと共闘出来たのだ。しかもトラブルは起きなかったと本人の口から言わせた。これは素晴らしい進歩だ。
――うん、良い一日だった。
私は足取り軽く、ギルドを後にした。明日からも頑張って生きて行こう。