04.相談室的アドバイス
そんな猛獣のようなオルヴァーに対し、時間を有効活用とした私は精一杯の勇気を振り絞って声を掛けた。見捨てられる事はあっても、余程の狼藉を働かない限り殺される事は無いはずだ。
「オルヴァーさん、突然なんだけど」
「……何だ」
一応話を聞いてくれる姿勢はあるらしい。顔も身体もこちらを向けないが不機嫌そうな返事があった。態度で嫌々表しながらも聞いてくれる姿勢、控え目に言って好き。
胸をときめきで満たしながらも、私は言葉を続ける。このまま黙っていてはへそを曲げられかねない。
「私、実は相談室を経営しているんだよ」
「何? い、いや、そうか」
明らかな一瞬の動揺。内心でほくそ笑む。
「で、それがどうした」
「この間、オルヴァーさんって相談に来たよね。声で分かったよ」
「は? 何の話だ?」
――すっとぼけても無駄無駄。
相談室へ来た、その事実を認めさせる為、言葉を重ねる。
「声でも分かるし、カーテンは引いてあるけどシルエットは見える訳でしょ。そうやって座ってるところとか、見えてる訳なんだよね。オルヴァーさんとこのパーティって結構有名だし」
「…………」
「今ちょっと時間があるから、この間、相談しに来てくれた事の解決策を私なりに考えたんだけど。発表していい?」
この言葉で観念したのか、深い溜息を吐くオルヴァー。ようやく相談室の人間である事を認めて貰えたようだ。やや項垂れた猛獣は投げやりに頷く。
「……好きにしろ」
「えーっと、オクルスさんへ渡すプレゼントについてだったっけ。それなんだけど、オルヴァーさんの話し振りからして、オクルスさんっていう人とはそれなりに親密だと私は推測してる」
「それで?」
「オルヴァーさんにとってオクルスさんが親密なら、恐らくその逆も然りってやつよ。つまり、オクルスさんにはあなたが選んで渡した物なら何でも喜んで貰えると思う」
「そんな訳あるか。なかなか気難しい奴だぞ」
――そういうところだよ、オルヴァーさん。
その言葉により、より確信させられる。2人は恋人同士ではないのかもしれないがとても親密な関係性だ。何せ、彼に性格が気難しい事を悟って貰えている。それなりに長い時間を過ごしてきたに違いない。
私はオルヴァーを納得させるように、言葉を続ける。
「いや、テキトーなモノは渡しちゃダメだよ? でも、贈り物をするタイプの性格ではないあなたが、贈り相手の事を考えて選んだプレゼントにこそ価値がある。オルヴァーさんから贈り物をされる事、それそのものに意味があるからプレゼントなんて最早オマケだわ」
「…………」
「あとはオルヴァーさんが記憶を頼りに、その人の好みのモノを考えて渡せばいいよ。それだけであらゆる意味合いがあるからさ」
そう、プレゼントなぞ所詮は添付物。肝心なのはオルヴァーが選び抜いた贈り物を渡される事だ。親密な間柄であれば、彼がいちいち記念日だか祝い事だかにモノを人へ贈らない事はすぐに分かる。
つまり、彼から渡される贈り物には重大な意味合いがあると言って良い。言うなれば、物では無く彼の心を貰えるようなものだ。
黙り込んでしまったオルヴァーを前に、話を締めるべく下手くそな笑みを浮かべる。反応が無いので聞いているのか怪しい。
「まあ、今は情報が少ないから、私から言える事はそれが精一杯かな」
今回はオルヴァーの性格、人柄からの予測でアドバイスをした。
彼は――私如きが語るのも何だが――誰が視ても分かる程、一般的に性格が悪いとされる人物と関係性を深められるタイプではない。短気である事と、人付き合いにあまり深い思い入れが無いからだ。
であれば、相手は何でも許してくれる聖女だの聖母だののタイプか、或いは友人にも似た間柄か。そのへんが妥当だろう。あくまで憶測となってしまうが。
悶々と考えていると、不意に視線を感じ、我に返る。唐突にオルヴァーと目が合った。苛立ちも何も無い、しかし穏やかという訳でも無いただただ凪いだ双眸と。
「そうか」
私のアドバイスにそう一言だけ言葉を漏らしたオルヴァー。何故だろう。気のせいかもしれないが、酷く納得しているように見える。