3話 シャッフル・クエスト

03.オルヴァーと愉快な仲間達


 ***

 シャッフル・クエストの相手がどこかへ行ってしまったので、オルヴァーは所在なくロビーでボンヤリとしていた。今日はいつものメンバーでクエストへ行く事も出来ないので、暇なばかりだ。

「よう、暇そうだな」
「……アリシアか」

 からかうような声音に顔を上げる。そこにはニヤニヤと笑う整った顔立ちの女性、アリシアと、少女の姿をしたシーラが立っていた。
 彼女等は特に断りを入れる事無く空いた席に相席する。咎める事も無いのでその様子を黙って見守った。
 口火を切ったのは俯いていたシーラだ。

「……シャッフル・クエスト。オルヴァーと組んだら、相手の人が怪我をしてしまうよ……」
「興味が無いな。出先で怪我をするのは本人の実力不足だろ、俺の知った事か。というか、シーラ。お前この間のシャッフル・クエストで相手を挽き潰しただろうが。人の事言えるのか……?」

 ちなみに、先程何やら捲し立てていたクエストの相手、女である事以外は薄らボンヤリとしか覚えていない。生存に必死そうな女だった気がする。名前は――朝までは捜す為に覚えていたが、今はもう忘却の彼方だ。
 興味が無いのでその思考すら流されて行き、代わりに興味のある話題を口にする。

「お前等、今からクエストか?」
「おうよ」
「アリシア、お前は良いけどな。シーラは人見知りなんだぞ、心配だ」
「シーラもお前には言われたくないだろうさ。大丈夫だよ、私達が可愛い可愛いシーラちゃんの面倒は見ててやるから」
「チッ、大丈夫なんだろうな。お前は頭のネジがトんでるし、ルグレの奴はお前にしか目が行ってないだろうが」
「ルグレもそんなにアホじゃないって。それに、シーラは私達が面倒を見なきゃいけない程弱くないからへーきへーき」
「クソ、胃が痛くなってきた。何でシャッフル・クエストなんてあるんだ……!」

 胃を押さえつつ、オルヴァーは盛大な溜息を吐いた。とにかく早急に今日のクエストを終えなければ。

 ***

 運命の時間、13時。
 私は意を決してロビーへ向かった。出来る準備は全て終えたし、後は私自身のポテンシャルに全て懸かっていると言えるだろう。

 騒ぐ心臓の音を鎮めつつ、オルヴァーの姿を捜す。ロビーにいた彼は、その場から動かず暇そうに時計を眺めていた。ずっとそこに居たのだろうか。
 第一声はどうすべきか考えた挙げ句、変に繕っても無意味と考え直し、誰にでもするように声を掛ける。

「どーも、お待たせ〜」
「……ああ」

 不機嫌そうに返事をされた。じろじろと姿を見られる。あ、これはまだ名前も顔も全く覚えてないな、さては。

「……で、いつ出発するんだ」
「日が暮れてからでないとゴーストは出て来ないから、もうちょっとしてから出発になると思う」
「そうなのか」

 知らなかった、と言わんばかりだ。それもそうだろう。生まれ持っての強い生物であるオルヴァーが、討伐Lv一桁の魔物を討伐した事があるかと言われれば、無いに決まっている。

「でもそろそろ出ないとまずいかな。墓地は近くにありすぎて転送魔法は使えないし、徒歩になるから」
「それならさっさと出るぞ。貴様、ヘマしたら許さないからな」
「き、肝に銘じておきます……」

 まだ何もしてないのに既に苛々気味だ。しかも、割と投げやり。これは最初から討伐の手助けは期待しない方が良いかもしれない。

 ***

 ――現在の時刻、16時。
 日が傾き始めており、西日が少しだけ目に眩しい。共同墓地には、既に鬱屈とした空気が立ち込めており、これから何かが起こるぞと言わんばかりの静寂に包まれている。あまり手入れがされていないのだろうか。傾いた墓石には蜘蛛の巣が張られていたり、人が踏み入った形跡が見られない。

「湿っぽい場所だな」

 徒歩での移動中、終始無言だったオルヴァーが吐き捨てるようにそう言った。眉間には深い皺が刻まれている。生オルヴァーの眉間の皺なんて貴重だな、と的外れな事を考えながら道中での出来事に思いを馳せる。
 そう、それは歩き出しの頃だった。何とかその場を盛り上げようと口を開いた私に、彼はぴしゃりと「無駄口を叩くな」とそう言ったのだ。以降、無言。何て痺れる道中なのだろう。

 ――でも、早く着き過ぎちゃったな。討伐を始めるのに、まだ1時間くらい待ち時間がありそう。
 ちら、とオルヴァーの様子を伺う。流石に現場を見ればまだ討伐を始められない事に気付いたのか、倒れた墓石にどっかり腰を下ろし苛々と周囲を見回している。まるで猛獣だ。