02.聖職者からの頂き物
まず1つ目、『腐臭放つ死竜討伐 Lv.55』。これは無いな。この死竜と言うのは絶えず生物を腐敗させる吐息を吐き出している。それを防ぐ為の魔法職が必須だが、私にその技術は無い。よって、勝ち筋が見えない。
次に2つ目、『凍える雪の女帝討伐 Lv.31』。オルヴァーがその気になれば簡単に倒せるだろうが、この魔物はデフォルトで広範囲の攻撃を放って来る。彼が私の事を護ってくれるはずも無いので、初撃で私が死亡してしまうだろう。次のクエスト次第とはなるが、選ぶ候補からは外したい。
最後に3つ目、『墓地の浮遊者達討伐 Lv.3』。何て都合の良いクエストだろうか。これであれば、私さえ注意していれば死ぬ事は無い。同時にLv.3の危険度なのでオルヴァーが手伝ってくれないだろうが、自分一人でもどうにかなりそうな魔物だ。
上2つは死。ならば、最後の3つ目を選ぶのは当然だ。最早私は迷う事無く、3つ目のクエストを手に取った。墓地の浮遊者とはゴーストだ。道具さえ揃えればどうとでもなる。
それを見ていたベティが表情を曇らせた。
「他2つは絶対にあり得ないと思うけど、ゴーストの討伐も聞いた所によると面倒臭いらしいね」
「道具さえ揃ってれば意外とどうにかなるよ、大丈夫。よかった、生き残れそう……」
「そうか。シキミがそれで生きて戻れるなら、私は応援してるぞ」
「じゃあベティ、行ってくるね。そっちも頑張って」
「マジでちゃんと帰って来いよ。オルヴァーとのシャッフル・クエスト、あまり良いウワサは聞かないからさ」
不穏な言葉を残したベティは最後にちらり、と心配そうに私を見るとそのまま自らの持ち場へと戻って行った。彼女は彼女で、今日は久々にデレクと2人でクエストにでも行くのだろうか。
「オルヴァーさーん、お待たせ〜」
クエストを持って、ロビーのテーブルにボンヤリと座っている本日限定の相方に声を掛ける。途端、もの凄い形相で睨み付けられた。
「雑魚如きが、俺の名を気安く呼ぶな」
「ええ? ご、ごめん……」
――リアルオルヴァー扱い辛っ!
しかしこれでは話が進まないので、持って来たクエストを相方にお披露目する。Lv.3の数字を見た瞬間、目に見えて分かる程眉根を寄せられたが気付かないふりをした。
「今日はゴーストの討伐クエストを受ける事にしたよ。オルヴァーさんなら楽勝かな」
「消化戦か。雑魚処理を俺にしろと言うんだな」
「いやまあ、私も死にたくはないし……。今回だけだと思って、妥協して欲しいんですけど」
「チッ……」
「それで、必要な道具を集めて来るから、13時集合でどう? どのみち、日が暮れないとゴーストは出て来ないし」
「ああ」
半ば叩き付けるような返事を受け、オルヴァーと別れる。非常に機嫌が悪そうだったので、これ以上しつこく付きまとっては何をされるか分かったものではない。それに、ゴースト討伐用の道具も集めなければ。
***
オルヴァーと別れた私は、ドラホスを捜していた。
というのも、ゴースト討伐の話にはなってしまうが、ゴーストへの基本的な物理攻撃は無効だ。すり抜けてしまう。
唯一ダメージを入れられるのが治癒魔法だが、私の魔法技術では治癒魔法などという高等魔法は扱えないので、この方法は不可。
残りは聖水をゴーストに掛ける事で一時的に実体を持たせ、そこを物理攻撃で倒してしまう方法。聖水さえ揃えられれば実現可能なので、聖水作戦の方が現実的と言えるだろう。
更にゴーストは実体さえあればただの雑魚魔物。恐らく私のなよなよしい剣技でも倒せる事だろう。
ただし、奴等は生命力――ゲーム的に言うとHP――を吸収する攻撃を放ってくる。あまり受けすぎると最悪死に至るので、それだけは気を付けなければ。
ともあれドラホスから聖水の購入だ。これが無ければ何も始まらない。
「先程から、誰かを捜しているのか?」
「わっ!?」
野太い声、弾かれたように振り返ると驚かしてしまった事に対し申し訳無さそうな顔をするドラホスの姿があった。今まさに捜していた人物の方から現れてくれるとは。
「ああっ! 丁度良かった、ドラホスさん! ちょっと捜してたんです!」
「私をか?」
「はい。実は――」
ドラホスに事情を説明した。全てを聞き終えた偉大なる聖職者は大きく一つ頷くと、聖衣からたくさんの小瓶を取り出す。
「そういう事であれば、いくつでも持って行ってくれ」
「えっ、そんなにたくさんはちょっと……。金欠だし」
「協会で無料配布している。金銭を要求する事は無いので、安心して多く持って行くと良い。死者の霊を供養してやってくれ」
「あ、ありがとうございます」
――教会とかクエスト以外で行かないから知らなかった。
両手にどっさり、5つの小瓶を貰った私はホッと安堵の溜息を吐く。これだけあれば、何体でもゴーストが討伐出来そうだ。