3話 シャッフル・クエスト

01.絶望の朝


 私はその日、憂鬱な気分でギルドへと出社した。
 理由は言うまでもなく、昨日のギルドマスターの爆弾発言。シャッフル・クエストという名の死刑宣告のせいだ。変な輩と組まされたら軽く死ねる。

 隠しもしない盛大な溜息を吐きながら、ギルドの重すぎる扉を開いて中へ。

「ヤバいよヤバい……。ギルドには人の皮を被った魔物みたいな連中がたくさんいるのに……」

 猫背になりながらグチグチと呟く。当然返事は無い。返事は無かったが、代わりにえらく焦った調子で名前を呼ばれて顔を上げた。この声は間違いなくベティだ。

「シキミ! シキミ、のんびりしてる場合じゃないぞ!!」
「お、おはよう、ベティ。どうしたの?」
「どうしたもこうしたもない!」

 青い顔をした彼女は歯をガチガチと言わせながらも、優しくも残酷な事実を私へと告げた。

「おっ、お前、オルヴァーとシャッフル・クエスト組まされてるよ!!」
「えっ、オルヴァー!?」

 嬉しさ半分、絶望半分の声を上げる。推しメン合法的に行動を共に出来るのは喜ばしい事だ。事だが、彼は強さに拘りのあるファイター。そして、サツギルのゲーム内でも低レベル時にシャッフル・クエストで組まされた際には一瞬で死亡イベントへと化す相手でもある。
 成る程、神は私に死ねと言うのか。だがしかし、推しメンに見捨てられ、弱いと吐き捨てられながら死ぬのであれば許される気もする。

 私が無言になったのを、絶望したからだと思ったのか肩を抱きながらベティが更に伝言を口にする。

「気持ちは分かるけど、そのオルヴァーが、お前が来たら呼べって……。誰だか分からないから」

 そりゃそうだ。どこにでもいるモブの顔なぞ、いちいち彼が覚えているとは思えない。こちらから挨拶しに行くべきだろう。
 どこに今日の相方の姿はあるのか、とベティの背後に視線を彷徨わせる。
 ひっ、と息を呑んだ。

「おい、お前が『シキミ』か?」

 ――お、おおお、お、オルヴァー!! 私の名前を! 呼んでる!!
 いつの間にかベティの背後に現れた武闘派、オルヴァーは腕を組んだ状態で私を睥睨している。侮蔑こそ混ざってはいないが、まるで私に対して興味の無い顔。明らかに顔も名前も覚えていない態度。
 控え目に言って興奮するが、胸を抑える事で周囲への被害を抑える。このまま私が心のままに叫び散らかせば、社会的に死ぬ事になりかねない。折角ベティと知り合えたのに、ギルドからどこか別の場所へ高飛びする事になるのはごめんだ。

 ともあれ、既にかなり不機嫌そうなオルヴァーは私を頭からつま先までちらっと見ると呟いた。

「雑魚のお守りか。面倒な……」

 ――きゃー! オルヴァーさーん、もっと罵ってー!!
 テンションMAXで心の叫び声を上げる。
 なお、彼は友好度や親愛度が高ければこの上なく頼もしいパーティとなってくれるが、それらが低い場合はピンチになると置いて行かれるので要注意だ。攻撃を受けて動けなくなった仲間を平気で見捨てるぞ!

 その事実を思い出すと同時、頭の隅がスッと冷えて行く。
 これ、下手なクエストを選択するとまず間違いなく命は無いだろう。3択の中から、最も生き残れるクエストを選ばなければ。

「おい、貴様。ぼさっとするな。さっさとクエストを終わらせて解散するぞ。クエストを選ばなければ……」
「ちょ、ちょっと待って!」

 シャッフル・クエストを早急に終わらせたがっているオルヴァーの足を止める。このまま彼にクエストを選ばせてしまっては私の生存率が著しく低下するだろう。何とか選択権だけでも手に入れなければ。
 オロオロするベティを余所に、言葉を捲し立てる。クエストはギルドマスターが用意した3択のいずれかだ。何があるか分からない闇鍋。絶対に私が選ばなければならない。

「クエストは私が選ぶよ! ほら、あなたのレベルに合わせたら、私、何にも出来ないでしょ?」
「なら早くしろ」

 あっさり選択の権利をもぎ取れた。面倒臭がられているのは間違いないが、今はそれが吉と出たようだ。

「私も一緒に行くよ、シキミ。今日は何の手伝いも出来ない訳だけどさ」

 私とオルヴァーのやり取りを恐々と見つめていたベティが復帰。クエスト選びに付いて来てくれるようだ。何て良い子なのだろう。

 貼出された掲示板の前まで移動する。いくつかあるシャッフル・クエスト用のクエストから、私達の名前が書いてあるものを選択。今回の3択をじっくりと読み込む。