2話 意外な相談者

03.クエスト選択


「お待たせ!」

 その後、あっさりベティ達と合流。なかなか良い眺めだったが、ずっと眺めている訳にもいかない。如何せん、待たせているのは私の方だ。
 嫌な顔一つせず快活な笑みを浮かべたベティから手をひらりと振られる。デレクの目が楽しげに細められ、「おはよう」と挨拶された。それだけで感無量である。

「今日は人数が多くて良いな! まあ、この間と1人しか変わらないけどさ」

 そう言ったベティの正面に座るデレクは、卓上に並べられた書類を数枚、私とドラホスに見せる。

「ドラホスさんとシキミを待っている間に、俺達で出来そうなクエストを見繕っておいたぞ。どれがいい?」
「私も一緒に見たけど、適正難易度内から選んだからぶっ飛んで難しいやつとかは無いと思うぞ」

 2人に後押しされ、ドラホスと共にクエストを覗き込む。
 まず1つ目、『漂う者討伐 Lv.10』。2つ目『影より出でる者討伐 Lv.8』。最後3つ目、『蠢く泥の手討伐 Lv.5』。
 ――全部討伐クエストじゃん。
 どんだけ魔物と戦いたいんだ、そう思わなくもない。が、この間のタウロス乱入が相当堪えたのだろう。自分達にも討伐クエストくらい出来るんだという強い意気込みが感じられるラインナップだ。

 ちなみにこの3体は全て1体の魔物を討伐するクエストとなっている。ゲームを順当に進めていけば、序盤を越える頃にはワンパンで倒せる魔物達。しかし、例のダブレットで確認したところ、私のレベルはたったの2。ゴミである。
 なお、今回初同行のドラホスはレベルがデフォルトで29。これは育てる前からあるレベルなので、どのクエストを選んでも全滅する事は無さそうだ。

 ――手っ取り早くレベル上げしたいところだけど……。そもそも私は、本当に強い魔物と戦ってレベルアップ出来るの? 強くなった気が全くしないし、魔狼を相手にしただけじゃ1しか上がっていなかった。
 これはリアルな意味合い、現実的な意味合いでの経験値を積まないとこのレベルと思われる数字に繁栄されないのではないだろうか。つまり、私も最低限何かを鍛えられる行動を取らなければ成長は無いという事。

「……ちょっと心配だし、一番難易度が低い泥の手討伐が良いんじゃないかなあ?」

 様々な事情を加味した結果、私は皆の様子を伺うようにそう言った。勿論、私はゲスト。身の程は弁えている。メインメンバー達が嫌だと言えばそれに従おう。
 しかし、殺伐としたギルドの中の清涼剤達はやはり優しさで出来ていた。案外あっさりとベティが首を縦に振る。

「そうだな。この間、危なっかしかったし。それが良いか」
「ああ。ドラホスさん、よろしく頼む。俺達はまだまだ弱いから」
「任せろ、とは言えないが一応僧侶だ。怪我をしたのなら言ってくれ。そういう訳だ、安心するといい、シキミ」
「アッハイ」

 ――おぉっと、何だか急にみんなが頼もしく見えて来たぞ……。
 これがリアルなモブの目線か、と感動しているとベティが勢いよく椅子から立ち上がった。ワクワクしているのが手に取るように分かる。

「そうと決まれば、早速出掛けようぜ! 場所はどこだったっけ、デレク?」
「ロンドリスの沼地だな。長靴は必須だろうか」

 ――うん、今日も楽しい1日になりそうだ。

 ***

 ロンドリスの沼地。
 名前の通り沼地で、長靴でなければ移動するのも難しい足場となっているフィールドだ。湿気が常に酷く、野宿しろと言われたら全力で拒否せざるを得ない地帯となっている。
 据えた臭いが鼻孔を擽ったところで、ドラホスが身を縮こまらせた。

「不穏な空気だな……」

 ――内心めっちゃビビってるんだろうなあ……。
 実は小心者の聖職者は先程からずっと辺りを見回している。小さな目はキョロキョロと忙しなく同じ場所を行ったり来たりしていた。けどドラホスさん、誰よりもレベル高いから。平気平気。

「それにしてもさあ、私、蠢く泥の手とかいう魔物は討伐した事無いけど。どんな魔物なの?」
「毎回調べて来ないよね、ベティは」
「いや、大抵の事はどうにかなるってギルドマスターがそう言ってたから」

 彼の言葉はアテにしない方が良いのではないか。そう思ったが、論点がずれてしまいそうだったので自粛した。
 ともあれ、ベティの問いに答えるべく、私は蓄えたゲーム知識の中からクソ雑魚魔物のデータを引っ張り出す。序盤で金稼ぎ程度にしか相手にしない魔物なので、結構記憶があやふやだ。

「確か、泥の手は……。半実体無し魔物に分類されてて、凍らせたり何とかして実体を持たせた上で粉砕するのがセオリーだったと思う。サイズは結構大きかったかな」
「流石はシキミ。有能」
「ああ。相談室で働いている事務員とはとても思えない」
「この間の魔狼の時も助かったぜ」

 誰でも知っている知識を披露したらベタ褒めされた。何て優しい世界なんだ。