2話 過酷すぎるペアワーク

07.第一回村人会議終了


 ちょっと待ってくれ、と真・占い師である神木が慌てた様子で止めに入る。あまりにも呆気にとられ過ぎていたところが実に真占い師らしい。

「い、いやいやいやっ! 音羽が占い師なら、何で最初に名乗らなかったんだよ!」
「どうしてかって、占い師を騙るのなんて十中八九狼だよね? 黙っておいて、占い師が出て来たらそれが狼だと思ったから」

 教室が静まっている。各々推理タイムに勤しんでいるのだろう。ややあって、天沢が恐る恐る口を開いた。

「……ちょっとどっちが狼なのか、判断は付かないなあ。どちらにせよ、ローラーはまだ早すぎると思う。本当の人狼ゲームと違って、毎日誰かを吊り上げなきゃいけない訳でもないしね。今ここで結論を急ぐのは――良くないかもしれない」

 急ぐも何も、占い師ペアを2ペアとも抹殺してしまえばどちらかは狼なのでゲームは終了する。ここでそれを言い出さないあたり、天沢の個人目標は「村人を多く生存させる」だったり「占い師を生き残らせる」なのだろうか。

 そんな天沢の意見に押されてか、日比谷と現状を確認していた彼女――鶴野莉亜が淡々と自身の意見を述べる。

「海崎さんはローラー作戦を強行しようとするし、正直、音羽さんの方を信じたい気持ちはありますね。信用を集めるべきの占い師ペアとは思えない言動でしたし」
「は? こんなゲームに信用もクソもあるか」
「そうだと良いですね。元ネタの人狼ゲームも、ある種信用とか言い回しとかが鍵になる部分もありますし」

 というか、と最初から反海崎派だった日比谷が腕を組んで目を細める。

「個別目標を大事にしてる奴等も居るんだよ。お前のロードローラ作戦は絶対に許せねぇな」

 ――これは……信憑性とか以前に、鈴音ちゃんの人徳と海崎くんのやらかし案件のせいで贔屓目されてる感じあるな。
 恐らく海崎が理性的であったならば、間違いなく怪しい鈴音の自滅だった。しかし、正論を言っているはずの海崎はローラー作戦でヘイトを集め過ぎている。皮肉なものだ。正しいのは海崎の方であるのに。

 しかし、1日目で狼露出などあり得ないので、依織もまたクラス内の流れに乗った。そうせざるを得なかった。

「まあ、確かに海崎くんの意見は村人を減らしたい狼の言動に見えるよね」

 ぎろり、という効果音が付きそうな勢いで海崎その人に睨まれる。あまりにも鋭利な視線に、一瞬だけ息が詰まった。獰猛な獣が唸るかのように、彼は低い声で呟く。

「またテメェか、如月……」

 ――ええ!? 何かしたかな私ぃ!! 人違いじゃないかな、海崎くん!?
 名指し。しかも明らかにキレ顔である。そこまで青筋立てて怒りを向けられる程の事をした記憶が一切無い。何なんだ一体。
 普通に彼が怖すぎたので目を逸らした。あのままでは眼光で殺されかねない。

 それと丁度、タイミングを同じくして担任の柳楽が勢いよく教室へと入って来た。授業が始まるのかと時間を見るも、後5分は昼休み。加えて次の授業は柳楽のそれではない事にも思い至る。
 無言でひょっこりと教室へ入って来た柳楽は九条に視線を向けると手招きした。

「おう、脱落者を引き取りに来た」
「ああ、そういえば僕、センサーが鳴ったんでしたね」

 暢気にそう言った九条は躊躇いなく自席から立ち上がった。最初に脱落しておきながら、それを感じさせない堂々たる振る舞いだ。
 そんな彼も一応はペアである芳埜の事を気に掛けていたらしい。
 一度だけこちらを振り返り、彼女を視界に入れた九条はひらりと手を振る。

「悪いね、後は一人で頑張ってくれ」

 九条を従えた柳楽は時計を見ると、注意喚起した。九条の遺言には欠片も興味が無い様子だ。

「お前等、もうすぐ授業始まるからな」

 ***

 午後の授業も水面下での牽制が続き、気付けば放課後となっていた。クラスメイト達は逃げるように帰宅してしまい、教室に人の姿は無い。結局の所、ペアと共に行動した方が良いという結論に達したのだろう。

 そんな広すぎる教室にて、依織は相方である鈴音と対峙していた。クラスメイトが速やかに下校してくれたおかげで、誰の目を憚る事無く会話が出来る。

「ねえ、依織ちゃん。九条くんのセンサーを鳴らしたのって、依織ちゃんなのかな?」
「……いや……」

 咄嗟に嘘を吐いた。
 乱発は出来ないので頼られても困るし、何もかもが上手く行った場合は最悪、個別目標の為に鈴音を闇へ葬る事になるかもしれない。スキルを詳しく説明するのは愚策だ。

 打算的な事を悶々と考えているのに気付いていないのか、鈴音は「そっか」、とあっさり首を縦に振った。まさか彼女も「狼一人で生き残り」という個別目標なのだろうか。狼サドンデスなどこの世の地獄過ぎる。

「あのね、依織ちゃん。私のスキルなんだけど……実は攻撃が出来るスキル、持ってないんだよね」
「え」
「ごめんね、襲撃はほとんど依織ちゃん任せになると思う」

 ――え、いや、私だって攻撃には向かないと思うけど!
 何せ、この疲れやすい体質だ。クラス全員のセンサーに攻撃しようと思えば、何度スキルを使わなければならないのだろうか。
 しかし、鈴音の目は真剣だ。嘘を吐いている様子は無い。