1話 学園生活1日目

09.海崎によるスキル講座


 寝惚けた頭でぼうっとしていると、起こしてくれた天沢が何故か現状の説明を始めた。

「如月さん、先生が今から大事な説明するから寝ている人達を起こせって。ごめんね、気持ちよさそうに寝てたのに」
「あ、そうなんだ……。ありが――」

「人が気持ちよく寝てんのに起こすんじゃねぇよッ!!」

 天沢への感謝の言葉は、突如響き渡った怒号によって遮られた。声がした方を見れば、例の海崎晴也がキレ顔で机を叩いた瞬間である。急な修羅場で完全に眠気が飛んだ。なになに、何事なのこれは。
 とにかく暴走老人のマジギレ披露会か何かのように叫んだ海崎は、射殺さんばかりの目で柳楽を睨み付けている。相当ご立腹の様子だ。

 例のペットボトルを買いに行かされていた彼が、必死に海崎を宥める。

「まあまあ、落ち着けって。先生、困ってるだろ――」
「うっせーな! こんな小学生のガキでも分かる授業に変な体力割かせてんじゃねぇよ! 分かってるから勝手に授業でも何でもしてろ!!」

 成る程な、と至って冷静に柳楽が頷く。恐ろしい剣幕で怒り狂う男子生徒を前に心でも死んでんのかな、この人。
 固唾を呑んで状況を見守る。

「つまり、俺が講義するまでもなくスキルについては分かってるから起こすなと、そう言いたい訳か。海崎」
「……ああそうだよ」
「分かった。じゃあ、先生の代わりに講義してくれ。まあ、教師である以上、生徒がちゃんと分かって言ってんのか確認する義務があるって事で」
「ああ!? 何で――」
「何で俺がお前の我が儘に全部合わせてやんなきゃいけないんだ。安心しろ、一問一答形式にしてやるから。そうだな、10分で切り上げれば後20分は寝れるぞ」

 海崎が更に恐ろしい形相で柳楽を睨み付けるも、その折衷案で納得したらしい。それ以上の文句を言う事も無く、鼻を鳴らした。
 教鞭を執らないと宣言したからか、先程まで立っていた柳楽が深く椅子に腰掛ける。足を組み、何かプリントを見て、そして1問目を口にした。

「じゃあ、1問目。メインスキルについて先生にも分かるように説明してくれ」
「スキル持ちが必ず1つだけ持っている。絶大な力を持ってるけど、コストが重く、運用にリスクを伴うので乱発は不可能」
「おう、いいぞ。まあ概ね正解だな。コストは重いが、最近では軽めのコストで乱発型のメインスキルも見つかってる。つっても、お前の回答は模範解答だったから問題ないが」

 柳楽に補足されたのが気に障ったのか、海崎少年は盛大に舌打ちを漏らした。負けん気が強い。

「……2問目。サブスキルについて答えよ」
「メインの他に持っている、コストの低いサブウェポン的なスキル。コストが軽く、気軽に運用出来るというメリットがあるが、メインに比べるとかなり性能が劣る」

 はいはい、と柳楽が頷く。

「おう、正解。んー、お前、入試の成績かなり良かったもんな。それじゃあ、最後。コストについて教えて貰おうか」
「個人が持っているポテンシャルを数値化したもの。完全に個人差の世界で、高い奴もいれば低い奴もいる。メイン・サブ共にスキルにもコストが割り振ってあって、スキルのコストが個人の持つコストを上回った場合、身体に重篤なダメージが表れる」
「おう、完答おめっとさん」

 心の伴っていない拍手を送る柳楽。やや誇らしそうに海崎が鼻を鳴らした。こいつ、褒められて嬉しそうだなんてちゃんと男子高校生だったんだな。

「はんっ! 当然だろ」
「そうだな。お前にはこの授業は要らんな。お休み海崎」

 あまりにもあっさりと授業中の睡眠を認めた柳楽に、流石の海崎も一瞬言葉を失って目を白黒させた。しかし、すぐに柳楽の言葉を理解。頭を横に振った彼はそのまま机に突っ伏した。
 というか――恐らく彼は不良とかいう人種では無いだろう。頭が良い。受験に命を懸けてここまで来た、普通の受験生だ。態度はあれだが。

 もう一度、本格的に眠りに落ちた海崎を観察する。担任が公認してしまったので、最早誰も起こそうとはせず、堂々と昼寝。大胆。
 クラスメイト達がこの天才についてヒソヒソと囁き合う中、授業が再開される。
 勿論、海崎のようなポテンシャルを持つ訳でもない依織は残りの20分授業を全て受ける事となった。途中で何度か寝落ちしそうになり、その度に天沢に起こしてもらったが。

 昼休みの時間が近くなり、柳楽が講義をまとめる。

「じゃあまあ、長くなったが、気を付けておくべきはたった1つだ。これから人工スキルを使った授業とかするが、コストの空き容量『5』以上の確保は徹底しろ。俺もな、お前等の名簿を持ってるが、いちいち人工スキルのコスト計算までしてやる暇は無いからな。自分で計算しろよ。ギリギリで運用すると碌な事が無い」