08.3限のスキル講座
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3限目は、1-1担任・柳楽理人によるスキル講座だった。
元々、適正就職科の最終目標であるイリニ・カンパニー入社とスキルは大きく関係がある。イリニで重要視されるのは、個々の技能だからだ。それは前線で仲間の回復に勤める者、身体を張って前線へ繰り出す者――役割そのものは多種多様と言える。
そして、それらを可能にするのがスキル。
スキル無くしてイリニ・カンパニーで働く事は叶わない。イリニの構成員その全てがスキル保持者だからだ。
しかしこの3限の講義。どうやら昼休みまでぶっつけでやるらしい。長すぎる。大学の講義かと疑いたくなる長さだ。休み時間が無いのも痛い。多分、というか絶対にどこかで寝てしまうに違いない。
更にはこの時間で必要な連絡事項を全て伝えたり、クラスの点呼取ったりとやる事が盛り沢山との事。そもそも面倒くさがりらしい柳楽は既に渋面だ。あんた担任だろうが。
「――と、言うわけで。授業始めるぞ」
それらの説明をかなり省略して伝えた柳楽は気怠そうにそう言った。始めるぞ、とは言ったがその手には大量のプリントを持っている。
「俺が一人でスキルについて説明したって眠くなるだろうし、先生も疲れる。で、折衷案として小学生でも知ってる説明文を副担任がプリントにしてくれた。から、10分でこれを読め」
――それはあんたが疲れるだけなのでは?
そう思ったが、副担任に作成させたプリントを全く当然のような顔で配る柳楽を見ていると誰も指摘する事など出来なかった。極力、声を張って授業をしたくないのが窺える。
「あ、そうだ。一人でやらせてもつまらんだろ。既に寝てる奴いるしな。適当に4人組くらいで読み合って良いぞ」
寝てる奴、という指摘で一瞬自分の事かと思った。が、よく考えてみたら今はまだ起きている。誰が寝ているのかとクラス内部を見回してみると海崎晴也だった。態度が図太すぎるのではないだろうか。
そんな彼は、先程ペットボトルを買わせていたクラスメイトにそうっと起こされている。よくもまあ面倒など見てやるものだ。
プリントを前から後ろに回してきた鈴音が、そのまま前を向く事無く止まった。言うまでもなく一緒に読み込もう、とそういうつもりなのだろう。そこへ、隣席の天沢も加わる。
「斜め読みしてみたけど、一般常識レベルのスキル知識だったよ」
「そうだねえ。これは多分、小学生レベルの復習だね」
「え、もう読んだの……」
どうやら読んでいないのは依織だけだったようだ。仕方なしに、びっしりと文字の並んだプリントに視線を落とす。
「いや情報量多過ぎ、読めないわ。こんなん白紙と一緒でしょ」
そしてすぐに投げた。
頭痛持ちなのでこの文字量は本当に堪える。これは神経性の頭痛だが、もう目の奥が痛くなってきたような気がして頭を抱えた。
慌てたように鈴音が声を掛けてくる。
「あ、文字とか読むの好きじゃない人なんだね。依織ちゃん。天沢くん、私達で内容を教えてあげようよ」
「そうだね。如月さん、僕達が着いているから!」
何だこの座学ファイター達は。頼もし過ぎる。
文字を読むと疲れて後半寝てしまいそうなので、素直にお言葉に甘える事にした。
「ごめん、よろしく……」
「わあっ、虫の息! わ、私の教え方が下手だったらごめんね、依織ちゃん」
「いや、大丈夫。伝わらないのは私がポンコツってだけだからさ……」
以下、鈴音と天沢が代わる代わる教えてくれたプリントの内容である。
まずスキルを持って生まれてくる人間は全人口の内、およそ2割。この数字は世間一般ではスキルという存在が認識されているものの、まだ異端扱いされている原因でもある。
ただし、スキルはある程度DNAで決まる部分があり、親がスキル持ちだと子供も高確率でスキル持ちになるのでこれからもっとスキル持ちが増える事となるだろう。
更にスキルは生物が徐々に進化するのと同様に、突然変異してみたり、親のスキルと全く重ならないスキルで生まれて来たりと一概に遺伝が全てで無い事も発表されている。
「お、ありがとう。んー、中学生の内容じゃないかな。これ」
小学生に聞かせる話では無いような気がする。しかし、この2人は小学校から私立だった可能性もあるし深くは突かない方が良いだろう。頭の悪さが露呈する。
しかし、この授業。もしかして聞かなくて良いかもしれない。この分だと全てが何かの復習のような気がしてならない。
「おーう、10分経ったぞ。じゃあ、先生も授業始めるかな……」
「嫌そうな顔しないでくださーい」
生徒からブーイングが上がるも、当然柳楽は自らの態度を急変させる事は無かった。プリントを配りはしたが、一応内容に触れ始めた教師の姿を見て、段々と目蓋が重くなってくる。
使っていた脳が動きを止め、呼吸音が一定に、頭の奥がぼんやりとして、抗いようのない眠気が思考の全てを支配し始める――
「如月さん、如月さん……!」
「んあ?」
天沢の声で唐突に意識が浮上した。癖で時計を見れば、30分経っている。明らかに寝落ちしていた模様。