08.
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部活が終了したので急いで着替え、待ち合わせ場所に指定した靴箱へ走る。6時半くらいに終わると言ってあったのだが、現時刻は21分。待たせる心配は無さそうだが逸る足を抑えられなかった。
「あ・・・!」
――が、靴箱にはすでに伊芸結芽の姿があった。靴を履き、スマホを弄っている。どのくらい待っていたのだろうか。
それと同時、人が待っていてくれる謎の安心感を覚えて足が止まる。待っていると言ったのだから勝手に帰ったりはしないだろうが、その人がいるだけで安堵する、穏やかになる。
「伊芸」
「あ、早かったね方波見くん。・・・どうして汗だくなの?」
「いや、えっと、走って・・・来た」
「そりゃ陸上部だから走るよね」
日本語が通じない!日本語って難しい!
貴方の為に走って来たんです、そう言えたら良かったのだろうが無理だった。キャパオーバー。
「か、帰るか。うん」
靴を履き替える。ただ一緒に帰るだけ、それだけなのに学生鞄を持つ手がじっとりと汗ばんでいるのが分かる。一体何を緊張しているのか。陸部の女子部員と一緒に帰った事もあったじゃないか。2人きりではなかったけれど。
「方波見くんは、今日一日何してたの?」
靴箱を出、校門へ向かいながらふと伊芸がそう訊ねた。
言われてみれば今日は何をしていただろうか、ゆっくりと遅い思考を回転させる。
――朝から今まで、ほぼ彼女の事を考えていたという恥ずかしい事実を発掘した。そうだ、言われてみれば朝練、折竹への相談から始まり、授業中は放課後の下校時間どうするかを考え、部活中はずっと彼女を思い浮かべて緊張していた。
「あーっと・・・色々、考えてた」
「えっ、そ、そうなんだ・・・えーと、私はねぇ、昼の焼きそばパンをゲットする為に授業を早く終わらせてくれるよう先生に頼んだり、理科室のメダカの世話をしてたよ」
「お、メダカかぁ。さすが理系」
「メダカは気付いたら増えてるからいいね。たまに水から出して骨格見る為に犠牲になってもらわないといけないし」
「骨格!?」
「魚にも骨はあるんだよ、方波見くん」
――理系、結構アグレッシブである。
1日に必ず1時間は数学と理科の授業があると言っていた。考えるだけで憂鬱になる時間割である。