07.
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放課後。部活は当然あるのだが、延々と練習していてもブッ倒れるだけなので、小休憩を挟んでいると不意に折竹聡に声を掛けられた。彼は部長だが、練習中は基本的に一部員としてストイックに練習するタイプである。
「おう、機嫌ええな、方波見」
「あー・・・ちょっと色々あってな」
「そういえば、朝の件どうなったか聞いてないけど、どうなったん?」
彼には色々助けられた恩があるので、水分補給しながら一緒に帰る事となった経緯を説明する。かなり掻い摘んではいるが、要所はちゃんと押さえたので問題無いだろう。
ふむ、と一つ頷いた折竹は少しだけ不思議そうな顔をしている。
「一個ええか?何でお前、連絡先訊きに行った時、ついでに帰る話せんかったんや。二度手間やで、それ」
「・・・そうだな。うん、言われてみれば面倒な事してたんだな、俺」
「せやで。顔見て言った方が断られる確率低いしな」
成る程一理ある。メールの文面だけならば適当に言い訳を考えて拒否するのも簡単だが、面と向かって言われてしまうと断りづらい空気になるのはよくある事だ。しかし、それは自発的に生み出す空気なのではなく、そういう空気になってしまったという偶然の元行われるべきなのではないだろうか。やはり折竹は策士である。
「もっと必死にならんと。お前、堅実ではあるけど詰めが甘いねん」
「何だよ詰めが甘いって!狩りとかしてるんじゃないんだからさぁ!お前は恋愛脳をどっかに忘れてきてるよ!」
「ええツッコミや。もう俺がお前に教える事は無い」
「ツッコミとかどうでもいいんだよ・・・!!」
マシンガントークの鈴島美鳥に比べると口数が少なく思える折竹。そんな奴にボケとツッコミのイロハなぞ教わりたくない。
休憩しているはずなのに疲れてきて盛大な溜息を吐くと肩をぽんぽん、と叩かれた。
「けどな、方波見。堅実なのもええけど、やる時はやらんとあかんで。熱くなる瞬間が必要なんや」
「おま・・・お前それ、随分とデカイブーメラン投げたな。ちゃんと受け止められるの?」
「うっ・・・」
「自分がやらない事を人に勧めるの、正直引く・・・」
先輩風を吹かせていても、所詮は恋愛経験が天と地の差。タイプ別、相性は悪そうである。何もしなくてもモテる人間が、わざわざ熱くなる必要も無いだろう。醒めやすく、冷めやすい。それが折竹聡だ。
「もうええわ・・・練習戻ろ。あとな、司の奴がえらい楽しそうにこっち見とったで」
「げっ・・・俺、あいつちょっと苦手なんだよなあ」
「司はええ子とは言えんからなぁ。味方のうちは心底頼りになるんやけど、敵に回すと・・・想像もしたないわ」
楽しそうって事は不機嫌ってわけじゃないやろうけど、そう言い残した折竹は本当に練習へ戻って行った。戻る時は一瞬である。