06.
2時間目。生物の授業だったが、勿論、真面目に聞くこと無く宏は『一緒に帰ろう』をスマート且つ自然に提案する文面を考えていた。当然、消えやすそうなメアドは登録済みだし、LINEの友達申請もとっくに終わっている。
「あー・・・うー・・・」
先生が黒板へ向き直った時だった、渋い顔をした正面席の成怩ェ振り返る。
「あのさぁ、さっきからうるさいんだけど」
「うるせぇ。こっちは今日一日どころか明日、明後日、明明後日くらいまで掛かる大事を抱えてるんだぞ」
「へぇ。なになに?」
ホームルーム前の会話を思い出す。こいつは確か記憶が正しければ連絡先を訊く時はどうすればいいか、という問いに対し生温い笑みを以て答えたのではなかったか。だとすれば、下らない事を聞くなと、また失笑される未来まで見える。
「・・・なん――」
「何でも無いは無し。後ろの席から聞こえて来る呻り声に悩まされる俺の身にもなってよ。解決したら大人しくするんでしょ」
「んだよ、お前には分かんないよ、手が早いくせにカノジョいないくせして・・・!」
「ちょっと!何で俺の事ディスってくるの!?相談に乗るよって言っただけじゃん!」
「――成怐Bこの問題を解いてみろ」
げっ、と言いつつ成怩ェ席を立つ。そこは律儀というか、条件反射というか。当然先程まで自分と話しをしていた成怩ヘ授業から置いてけぼりをくらっており、目を白黒させている。
しかし、そこは器用貧乏の特権。さして難しい問題でもなかったのか、数十秒の沈黙の後にはしっかりと正解を口にした。
「もー、当てられちゃったじゃん。くそぅ・・・これ、完全に巻き込み事故だよ・・・」
「それで、帰り一緒に帰ろうって言いたい時は何て言えば自然なんだよ」
「結局聞くの!?しかも初歩の初歩!」
「成怎b!!」
こうして騒がしい生物の時間は過ぎ去った。
そして事あるごとに成怩ェ騒ぐので、結局アドバイスらしいアドバイスは何一つ頭に入らなかった。仕方が無いので、シンプルに『部活が終わるまで待ってくれるのなら、一緒に帰りたい』と送る事になったが、二つ返事でオーケーを貰えたので割と伊芸は優しいのだと思う。