STEP:1

05.


 ***

 1時間目が終了すると同時、宏は伊芸に会うべく3組の教室を目指していた。3組といえば理数科。0時間目に始まり、7時間目まであるエリートクラスである。なお、国公立である1組と2組は8時間目まであり、且つ土曜日も昼まで授業があったりする。不憫な気もするが、そんな彼等が部活をしやすいように部長会なんかは彼等の時間に合わせられるので大変だと折竹が言っていた。
 やや現実逃避しながらも教室へたどり着けばやはり勉強クラス。休み時間にも関わらず、席の半分が埋まっているし、立ち回っている連中も教科書を持っている。あ、これはまさか、次の時間小テストとかなのかもしれない。出直した方が良いだろうか。

「あ・・・」

 もたもたしているうちに、教室の最深部にいた伊芸結芽と目が合った。少しだけ驚いた顔をした彼女は軽く手を振るとわざわざこちらに近寄って来た。気分は水族館で魚に強烈なアイコンタクトを送っていたら予期せずこちらへ近付いてきたくらいの奇跡だ。

「どうかしたの、方波見くん。何か用事があるみたいだけど・・・」
「・・・勉強してんのか?」
「次、科学が小テストなの。評定4は欲しいから、小テストは頑張らないといけないよね」
「あ、悪ぃ、出直して来る」
「いいよ、別に。それに授業なんて毎回どれもテストみたいなのやるし、また次の時間も来られたら、それはそれで迷惑かな・・・」

 ――毎時間テスト。彼女達はそんな苦行を何故、強いられなければならないのか。
 こちとら、小テストなんて月に1度あるか無いかである。学科格差とはこういう事を言うのか。高校時代くらい楽しめばいいのに。修行僧のような生徒達である。

「あーっと、とりあえずメアド教えてくれよ」

 自然な会話の流れ。
 時間を取らせまいとしたせいで成怩フ言葉は完全に吹っ飛んでいた。用件を口にした瞬間思い出したのでまだ良い方だが。

「ああうん、そういえば知らなかったね」
「何探してんだよ」
「赤外線」
「は!?いやいや、スマフォには赤外線とか付いてないから!」
「え!?そ、そうなんだ・・・知らなかったよ」

 大丈夫かコイツ。理数系とかいいから、まずは常識をアップデートした方が良いんじゃなかろうか。今までどうやってアドレスの交換をしていたのだろう。LINEのみしか使わないとか?そんな馬鹿な。
 宏の突っ込みで焦ったのか、何かにアドレスをメモろうとしていた伊芸はペンだけを持って帰って来た。そして何を思ったのか宏の手を取ると、手の甲にアドレスをつらつらと書く。

「ちょ!?何で俺の手に書いた!?」
「あ!?あああああ、ごめん、つい、急いでて!」
「いや良いけど・・・これ、間違ってないだろうな?」
「うん・・・」

 水性、とペンに書かれている。洗えば消えてしまうだろうから、早く電話帳にアドレスを追加する必要があるだろう。というか、@ド○モって何だよ。綴り出て来なかったのだろうか。
 色々紆余曲折はあったものの、無事に連絡先を交換。これでいつでも好きな時に用件を言えるようになった。

「じゃ、俺教室に帰るわ。小テスト頑張れよ」
「はーい」