04.
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朝練を無事終えた宏はさっき聞いた折竹からのアドバイスを実践すべく、スマートフォンを取り出した。さすがに面と向かって帰りを誘うのも余裕が無い男感が酷いのでさらっとLINEで済ませてしまおうという魂胆である。
しかし、そこで重要な事に気付いた。
――そういえば、LINEはおろか、彼女のメアドも知らない事に。
「な、なんだと・・・っ!?」
教室の前で立ち尽くす。朝練終了後なのであと5分もすればホームルームが始まるだろう。
連絡先が分からないというまさかの事態に盛大に狼狽えつつ、席に着く。いや、落ち着いて今日の計画を修正しよう。まずは何よりも先に伊芸結芽に会い、連絡先の交換をする。というか、何故昨日の時点でやらなかったのか。我ながら浮かれすぎである。
「やっ、方波見!何をそんなに悩んでいるんだい?」
状況にそぐわない明るい声。前の席に座っていた成恬ヌ弥だ。クラスメイトであり、友人でもある彼は今日も今日とて何も考えていなさそうな顔をしている。
「そういえば、カノジョが出来たんだって?俺でよければ相談乗るよ」
「お前どっからその情報仕入れてきたよ・・・」
「伊芸さんの友達かな」
「そうだよな、お前はそういう奴だったよ」
女『友達』は多い成怩セが、彼は如何せん付き合うまでいけないヘタレ系である。何かを相談すると言っても折竹くらいの安心感は無い。完全に相談と言うより会話の延長線のような感じだ。
「お前さ、女の子と連絡先を交換する時ってどうする?」
「へっ?え、そんな初歩的な事で悩んでたの?この世の終わり〜、みたいな顔だったけど」
「そうだよ!悪いか!」
「悪く無いけどさぁ、ほら、偏見だったら悪いんだけど陸部ってモテるからねぇ。手慣れてる奴多いし、君みたいなのはちょっと珍しいかなあ」
「みんながみんなそうじゃねぇし、アイツ等と一緒にされるのは心外だな。ちょっと頭おかしいんだよ・・・」
「しー。ウチのクラス、上鶴くんがいるの忘れたのかな?」
「あ?朝練いなかったぞ、どうせホームルームにも来ないだろ」
直接話を聞いていないので断言は出来ないが、折竹のお墨付きを貰うくらい上鶴も頭がおかしいのは確かだ。あまりこの件で彼とは関わらない方がいいだろう。
「で、連絡先を聞く方法ね。俺達は今、こうやって自然と会話してるけどさあ、何かの拍子に会話が途切れた時とかに自然と切り出せばいいよ。いきなり『連絡先教えろ!』って何かの業務連絡用みたいだし、味気ないからね」
「業務連絡・・・?」
「同じ部で全員のアドレスを知っておきたい、とか。一緒に係やっててすぐに連絡出来るようにしておきたい、とか。でもほら、君達はそうじゃないだろ?いや、君が『付き合ってるんだしメアドくらい知りたい』、って素直に言えるのなら何も問題はないけど」
成怩フ言葉ですぐに想像したのは突撃○宅訪問である。確かに、わざわざ会いに行っておいていきなりアドレスを訊ねるのは少し不自然だ。何より余裕が無さそうに見えてみっともない。
成怩フなんちゃって恋愛知識なぞ役に立たないと思っていたが、訂正。自分の知識よりよっぽど役に立つし、折竹の後だからか知らないが血の通った人間と喋っているようでとってもグッド。
「方波見、今なんか失礼な事考えてない?」
「考えて無い。それより、チャイム鳴ったぞ」