STEP:1

02.


「――で、何がどう厳しいのか取り敢えず俺に説明しろよ」

 本題へ軌道修正すれば盛大な溜息を吐かれた。心外である。
 ええか、とテクニシャン折竹は3本指を立てた。顔にはありありと呆れの表情を浮かべている。

「まず第一に温度差や。俺はその温度差が好きやねんけど、今のお前の状況はカノジョをキープしとるだけの片想い状態や。何でかって言うと、今の伊芸さんの心理状況は『嫌いじゃないから取り敢えず付き合ってみるか』、って事やねん。となってくると、優先順位は必ずしもお前が上ってことやない。家族とお出掛け、友達とお出掛け、でお前の予定はあっさり断られる立ち位置なんやけど、ちゃんと把握しておかないと立ち直れんくなるで」
「ま、マジか・・・!?というか、そもそも俺はデートに誘う段階までいけるのか・・・?」
「まあ、告白出来る相手なだけマシなんやで?」
「折竹よぉ、お前って現実主義だよなあ・・・。恋なんて夢視るもんじゃねぇのかよ」
「ええで、夢自体は視とってもな。現実はそんな優しくないけど」

 言いながら折竹は指を1本折った。まだ問題点1つ目なのに、すでに気分は石を呑み込んだように重い。何しろ、同級生が思っていたより恋愛に貪欲でちょっと引いてる。

「で、次や。ここからはお前が初心者って事が問題になってくる。伊芸さんはお前と付き合っとるんやなくて、お前に付き合ってるんやから当然お前からアクションせな何も進展せえへんで」
「と言うと・・・?」
「一緒に弁当食おうっちゅーのもお前。デートに誘うのもお前。何か要求するのもお前って事や。待っとっても何もならんのやから、方波見が動くしかないやろ?で、お前はカノジョをデートに誘ったりキスしたり出来るん?」

 ――出来るだろうか。
 素朴な疑問。そういえば、そもそも声を掛けるのにだって何重にも心の準備をして、それで廊下で出会った時もたどたどしく、まるで初対面のように話し掛けたのではなかったか。しかも、相手が自分を好きになるように仕向けるのが上手いやり方と言うもの。はたして自分にそれが出来るのだろうか。
 思考の海に沈んでいる間に淡々と折竹は話を続ける。

「最後、自然消滅までが様式美やんな。お前が何もせんと、関係すぐ終わってしまうで?かといってしつこくするんも駄目なんやけど・・・」
「・・・あのさ、折竹。お前何で温度差が好きなのか一応訊いてていいか?」
「甲斐甲斐しくするのが好きやから。手の掛かる子ほど可愛いって言うやろ?でもな、俺みたいなんは続かんねん。懐いた後はもうどうでもよくなってまうから。俺は参考にせん方がええで」
「あー、だから最近カノジョいないんだな」
「それはまあ、ちゃうけど。好きな子はおるよ。火星語を操る、最低テレパシーは使えな会話も出来ん子やけど」
「え?お前はあれか、とうとう火星人でも見つけたのかよ。売れるんじゃね?テレビとかに」

 これだけ聞いても温度差が楽しいものだとは到底思えない。自分が楽しいなら相手も楽しいと思っていて欲しいし、やはり好きでいてもらわないと面白くないじゃないか。
 やっぱりこう、須藤といい折竹といい、モテ過ぎる人間って人格が歪んでいる気がする。折竹の言い分は裏を返せば『好かれるのが嫌い』、という非人間的な考えになる。確かにこれでは参考にはならないだろう。
 折竹と付き合う事そのものは難しくない。継続する事が難しい。彼に引っ掛かった女子生徒に黙祷を捧げつつ、次は何をすべきかぼんやりと思考する。彼の恋愛観は参考にならないが、言っている事そのものは間違いじゃないのだから。