01.
夕焼けが彼女の横顔を橙色に染めている。それはまるで絵画の一枚のようでとても非現実的だった。恐らく、そう見えているのは自分だけなのだろうが。
「えーっと?それで、話って何?もう6時半過ぎだし、早く家に帰らないと・・・」
そう言って首を傾げている彼女の名前は伊芸結芽。現在クラスは違うが、一昨年はちゃんと同じクラスだったし2年までは交流があったのだ。彼女とは部活が始まる前、ホームルームが終わった後に偶然廊下であった。
こんなチャンスは二度とない、そう思ったので迷惑は承知で話があるから部活が終わるまで待っていて貰えないだろうかとお願いしたのだ。
――行き当たりばったり。
それは痛い程分かっている。が、今を逃せば二度とこんな機会は巡って来ないかもしれない。とにかく、ここまで来たのだ。後戻りは出来ないだろう。
方波見宏は両目をぎゅっと瞑り、やけくそのような勢いで言った。言い切った。
「あのさ、俺、お前の事、2年の時から好きだったんだ。付き合ってくれ!」
空気が止まる。背筋に嫌な汗が伝うのを感じつつ、じっと返事を待っていた宏はゆっくり顔を上げた。胡乱げな顔をした結芽と目が合う。
「・・・えーっと、確かに方波見くんの事はそこそこ知ってる方だけど・・・うーん、よく分からないから、恋人(仮)で、取り敢えず始めない?」
「仮!?何だよそのスマホゲーにありそうな感じのアレ!!」
***
「――ってのが昨日の話なんだけど。どうよ、これ。脈有りじゃね?」
陸上部である方波見宏は火曜日の朝練に参加していた。隣で着替えている部長、折竹聡がうんうん、と適当極まりない相槌を打つ。
彼に昨日の話をした理由は簡単だ。奴は――認めたくはないが、非常にモテる。本人が変わった好みをしているのでカノジョがいる事はあまり無い、というか最近はまったく無いが相応の技術を有しているのもまた事実。よって、恋愛相談にはもってこいだと判断したのだ。
案の定、彼は少しばかり逡巡した後、昨日の出来事についてこうコメントした。
「そら厳しいなあ。何がて、お前、カノジョおった事ないやろ?」
「うっ・・・いや、陸部にいるとさ、お前や須藤の奴がモテ過ぎて女子の眼中に俺等みたいなフツメンは入らないんだって!」
「それも一概に良い事ばかりとは言えんのやで。だって、結局は好きな子にモテな意味ないやろ?まあ、俺の場合それ、諸刃の剣なんやけど」
「自分に対してキャーキャー騒がれたら冷めるって?お前ホント良い度胸してるよなあ・・・」
「せやねん。俺はな、もっとこう、反骨精神の強い子が好みやねん。俺見てキャーキャーとか騒がれても困んねん。で、それは司も同じや」
「いや、お前と須藤じゃベクトルに違いがありすぎるから」
そうだ。確か噂によると折竹の好みは――
やはり須藤以上の変わり者である事に違いは無いだろう。須藤司は本人が随分変わった性格をしているが、好みのタイプを聞くと割と普通だし。