Ep8

03.


「――まあ、それは良いとして。美鳥ちゃん、胃に穴が空いちゃうよ、百合子ちゃんにしつこく話なんて聞かれたら」
「えっ」
「百合子ちゃん、自分が育ててる草花に何かあったら恐いから。普段からキレやすい気はあるけど、まあ、それの比じゃないよね」

 いや無理、と美鳥ちゃんは力強く机を叩いた。麻純ちゃんの冷めた目が向けられる。

「あたし、基本的に顧客情報第一やから!個人情報なんて吐き出せるわけないやん!こちとら信用業やねんで!?」
「ああうん、知ってるよ。私もお世話になってるし」
「壱花・・・お前、そんなんに相談する前に、あたし達に言えば良かっただろ・・・胡散臭いぞ、コイツ」
「麻純ちゃん達の吃驚理論で恋愛なんて出来るわけないじゃん」

 しかしどうしたものか。美鳥ちゃんは割と良い人なので、個人情報の筆頭、人の名前をバラすなんて事はしない――出来ないだろう。けれど、出来ない事を無理矢理『出来る』事に変えてしまう百合子ちゃんの攻撃はハッキリ言って、精神に来る。羽多野くんが最初の最初、私達が初対面した時に胃に穴を空けかけたのは今では良い思い出だ。

「――あれ、その前に、美鳥ちゃんは花壇荒らしの犯人って分かってるの?」
「いや知るかい!柏木百合子の追っ掛けて、何人いると思ってるん?このままだと、まさか全員分の名前吐かされるとかか・・・アカン、あたしの信用が失墜する・・・」
「うーん、じゃあ百合子ちゃんの怒りを鎮めるしかないなあ・・・それまでは、私と一緒に毎日下校しようね。百合子ちゃんは少ない友達思いだから、私の前で私の友達を糾弾したりはしないよ・・・多分」
「それも、それで・・・柏木さん以外の人に殺される・・・」

 呟いた美鳥ちゃんは憂鬱そうに溜息を吐いた。麻純ちゃんが哀れみの目を向ける。

「ま、今回ばかりはあたしもフォロー出来ないな。花壇見たら分かるけど、酷い惨状だったし。非常識な奴もいたもんだな」
「ぶっちゃけ、花壇荒らしの犯人がどうなろうと知ったこっちゃないけど、美鳥ちゃんは私のお友達だからね!安心して!家までちゃんと送り届けるから!」
「うん。あたしな、お前等四天王のヤバさを今改めて理解したわ。これ死んだな」