04.
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柏木花壇事件から1日目。
私は麻純ちゃんと一緒に園芸部の花壇を訪れていた。というのも、一応は百合子ちゃんに話を聞いておこうと思ったのだ。麻純ちゃんを連れて来たのは、私がほんの少しだけ百合子ちゃんが苦手だからだが。
それに、麻純ちゃんは物理的に無理なお願い以外は大抵聞いてくれる心優しい人物なので断られたりはしない。
「おー、こりゃ酷い。百合子じゃなくたって怒るだろ、こんなん」
「そうだねぇ。もうこれ、庇う余地無いのでは・・・」
広がっている光景は『惨状』の一言に尽きた。元は柔らかそうだった黒っぽい土にはクッキリと数人分の足跡、それでも土だけを器用に踏み潰していたその足跡だったが、一番手前に咲いていた花の一本の茎がぽっきりとご臨終なされている。
これは――代弁の余地、或いは何かやんごとなき事情があったとしても百合子ちゃんの怒りが収まらないレベルの冒涜なのではないだろうか。考えるだけで恐ろしい。
「ねぇ、酷いでしょう?私はノノちゃんの為にも、必ず犯人を見つけ出す必要があるの」
「ノノちゃんって何・・・?」
「折れちゃって可哀相な事になっている子よぉ」
そう、百合子ちゃんは自分が世話する草花に微妙にセンスの無い名前を付ける癖があるのだ。その『ノノちゃん』とやらも百合子ちゃんが世話していたのだろう、彼女からはひしひしと怒りの感情が伝わってくる。
百合子ちゃんは優雅にその長い髪を耳に掛けると、まるで自分の子供に接する母親のように慈しみ深い表情と動作で、そっと『ノノちゃん』を撫でた。
「百合子ちゃん、今からどうするの?」
「まずはノノちゃんをこの布で補強するわぁ。その場凌ぎにしかならないけれど、完全に枯れるまでは面倒を見るつもりよ」
そう言って微笑んだ百合子ちゃんの顔。美しくも恐ろしい冷笑に戦々恐々としながら、私は踵を返す。そろそろ陸上部の練習が終わる時間だ。百合子ちゃんと鉢合わせる前に、美鳥ちゃんを回収して撤退しなければならない。
「じゃあ、百合子ちゃん。私も犯人を見つけたら教えるから、あまり美鳥ちゃんには絡まないでよ」
「考えてはおくわぁ。どうなるかは知らないけれど」
「そっか。よし、行こう、麻純ちゃん」
あたし何の為に来たんだよ、とボヤく麻純ちゃんは握った腕を振り解いた。
「あたしは一人で帰るよ。というか、百合子と帰るから先帰ってろ、壱花」
「ま、麻純ちゃん・・・!」
「早く行けってば、しっし!」
――あたしが百合子を足止めしといてやるから、言外にそう言われ、私はあまり速くない足を動かし、美鳥ちゃんとの待ち合わせ場所へと走った。