Ep8

01.


 それは丁度、昼休みが始まり、美鳥ちゃんと弁当を食べている時だった。

「美鳥ちゃん、弁当って自分で作るの?」
「いやいや、寮母さんが昨日の残り置いとってくれるんよ。それを詰めただけやで」
「へぇ・・・。ああ、そういえば美鳥ちゃんも寮生か」
「せやせや。つっても、こっちで大学行くつもりやったらさすがに独り暮らししたいわ。ま、大学に寮があるかも分からんけど」

 ――他愛のない世間話。
 それを遮るように教室のドアがスパン、と子気味の良い音を立てて開け放たれた。自然、クラスメイトの視線がそちらへ集中する。

「あ、麻純ちゃんだ」

 やって来たのは1組にして不良と名高い芦屋麻純その人だ。彼女が他人のクラスへ訪ねて来るのはかなり珍しい。そんな彼女は少しばかり不機嫌そうな顔のまま、私の机へと一直線に向かって来た。途端、ざわざわと騒がしくなる教室。

「聞け、壱花・・・面倒臭い事になってる」
「え?なになに?消しゴムでも忘れたの?購買で買っておいでよ」
「違うわ!そんなんじゃないんだよ、あと、別に壱花に用は無くて、あたしは鈴島美鳥を捜してんだ」

 唐突な飛び火に美鳥ちゃんがギョッとした。
 麻純ちゃんと美鳥ちゃんの間に接点なんてあっただろうか。ほぼほぼ初対面だと思うのだが。
 怪訝そうな顔をして見せると、麻純ちゃんは眉間の皺を親指でグリグリとのばしながら、疲れ切った顔で事の詳細を語り始めた。

「いや、百合子って園芸部の部長やってるだろ」
「やってるね。百合子ちゃんって結構マメだから、花とか育てるの好きそうだし」
「好きってレベルじゃねぇよ。アイツはな、草花を自分の子供みたいに可愛がってる。ぶっちゃけ引くくらい」
「そうなんだ。・・・それで?」

 草花関係の話をしようとしているんだろうな、そう当たりを付け、弁当の唐揚げを口へ運ぶ。美鳥ちゃんと弁当を食べた後は清澄くんの様子を見に行こうと思っているし、あまり長引かないで欲しいものだ。