Ep7

07.


 ややあって、あー、と納得したように由衣ちゃんは何度も頷いた。

「えーっとですね、芳垣とよく一緒にいるように見えるのは学年が同じだからです。クラスとかって学年毎に同じ階にあるじゃないですか。そうなると、必然的に出入りが重なっちゃうんですよ」
「あー、そっか。そういえば、私と清澄くんもそれ多いなあ・・・」
「そうそう。それに、一緒にいるからってそれが恋愛に発展するかは別じゃないですか。少なくとも私は芳垣を恋愛的に好きではないし、これからもそれは無いと断言出来ますね。悪友って感じですよ、奴とは」

 一つ賢くなれた気がする。常日頃から一緒に行動しているとはいっても、恋愛に発展するかは別。
 ――では、私は。私はどうだろうか。
 そもそも、清澄くんと私はどうしていつも一緒にいるように感じるのだろう。よくよく考えてみれば不定期に開催される心研部以外の接点なんて無いような気がする。昼休みに会いに行く事が多いが、それ以外は「まあいいか、昼に会ったし」とそう考えているのも事実だ。

「先輩?部室に帰ったら早めに報告書に取りかかって下さいよ。あたしが考案した作戦はことごとく却下してくれちゃったんですから、さっさと終わらせましょう」
「そうだね。昼は何食べようかな――」

 部室のドアを開けた先。
 広がっていた光景は実に予想外のものだった。

「・・・ああ、壱花お帰り」
「そういえば、俺、飲み物のリクエストしとらんかったけど何ば買って来たと?」
「・・・え」

 表面上は酷く穏やかにそう尋ねられた。部室居残り組――珠代ちゃんと清澄くんに。けれど、それでも隠しきれていない険悪さが私の足と口を止める。
 突き刺すような険悪な雰囲気は由衣ちゃんも感じているのか、ぎょっとした顔で固まっている。え、ちょっと出ていた間に何があったというのか。そもそも、時間に厳格で何事もきちっとしていないと気が済まない珠代ちゃんと、割と適当でいつもだらけている清澄くんは相性があまり良く無い。それは前々から分かっていたし、互いに気付いていたらしいので彼等はあまり顔を合わせる事が無い。よって、今まで何でも心研部で顔を合わせているし、クラスも一緒の二人が喧嘩らしい喧嘩をして周囲を困らせた事は一度も無いのだ。
 それは暗黙のルール。絶対的に相性が悪い二人は、踏み込んだ会話をしない態度を取らない。私が隣のクラスへ遊びに行くから、互いに付き合っているだけでそうでなければ部活以外で連む事は無いだろう。

「・・・えっと?珠代ちゃん達は・・・喧嘩でもしてるの?」
「してないわよ!」
「ヒエッ!?」

 ダァンッ、勢いよく珠代ちゃんが机を叩いた。凄まじい音がして顔を強張らせる。こんなに恐い友人の姿は初めて見たかもしれない。