Ep7

05.


「え、いや、その・・・ごめんね?」
「何に対して謝ってるんですか」
「スムーズに事が進まない事、かな」

 そういう事じゃなくて、と由衣ちゃんは酷く疲れた顔でそう言った。

「何でそういう事知らないんですか・・・」
「ええー、知らないよ。普段誰が何飲んでるかなんて。そういう話なんてしたこともないしね」
「そういうんじゃないんですよ、そういうのじゃ・・・!」
「じゃあ由衣ちゃんは、私が清澄くんの事を何でも知っていなきゃいけないと思ってるの?ちょっと難易度高く無い?」

 両極端だとは思ったが、さすがに馬鹿にされすぎ感が否めなかったので言わせてもらった。由衣ちゃんは呆れを通り越して悲しそうな顔をしている。何だって言うんだ一体。

「じゃあ聞きますけど、先輩があたしにジュースの差し入れをするとしたら、何を買います?」
「由衣ちゃんに?甘いのが好きだって言ってたから、甘い飲み物かな」
「じゃあ、珠代先輩には?」
「珠代ちゃんは甘過ぎるものは嫌いだから、ジャスミンティーかな。確かあの銘柄が好きだって・・・前に・・・」
「で、上鶴先輩には何を買うんですか?」

 ――沈黙。
 そういえば、清澄くんって何が好きなんだっけ。そうだ、両極端とかそれ以前の問題、由々しき事態ではないのかこれは。だって由衣ちゃんの好みも、珠代ちゃんの好みも『大方』分かるのに。これじゃあまるで。

「あの、やる気あります?こう、恋する乙女っていうのは貪欲だったり、逆に素直になれずに『知らないしっ!』とかそんな感じじゃないですか。壱花先輩はアレですよね、何ていうか無関心過ぎて、他人みたいですよね」
「そ、そう見えるかな・・・?」
「少なくとも、上鶴先輩が好きだっていう女の子には見えないですね・・・」

 さすがは恋愛経験豊富な由衣ちゃんだ。的確に例を出し、見事先輩であるはずの私を納得させた。
 確かに、清澄くんの事ならば何でも知っている、必要は無い。けれど、友達間でもそうであるように、感心がある相手に対しては自然と「何が好きだった」、「何が嫌いだった」、などという情報が蓄積されていくはずなのだ。
 好きな飲み物でも、食べ物でも、スポーツでもいい。それとなくずっと一緒にいたのだから、そのくらい何とはなしに分かっていたって良かったのではないだろうか。
 だって今になって思えば、部室でヨーグルト食べてた事もあるし、情報を幾らでも見て聞いているはずだ。はずだった。ピンと来ないのは観察力が足りないからじゃない、関心が足りないからだ。

「――その、偉そうな事言っちゃってすいません。思えば、それが壱花先輩らしさかもしれませんし、それはそれで個性的で良い・・・かもしれないですよね」
「フォローになってないよ、オブラート破れて中身出てるよ由衣ちゃん!」
「ま、取り合えずあたし達で逢い引きしてたって仕方無いんで、適当に買って帰りましょう。部活生だし、アクエリとか水とかで良いと思いますよ、たぶん」
「当たり外れなくて無難な所だよね」

 言われるままに水とアクエリを購入。清澄くんが取らなかった方を私が貰うとしよう。水の方が好きだけれど、喉を潤せるのなら正直どちらでもいい。