03.
そうこうしている間にも、2人の口論はヒートアップしていく。
「壱花先輩は上鶴先輩とイチャイチャしていたんですから、誘ったら邪魔でしょう!?言わせないでくださいよ、先輩方に気を遣わせないようにしてるんですから!」
「飲み物要らない人間が購買に行くってパシリじゃないんだから。行きたい人間が行けばいいのよ、しつこいわね」
「だ・か・らー!部室で2人きりにしてあげよう、って後輩のあたしが考えてるんじゃないですか!こんなに空気が読めない珠代先輩って珍しいですね!壱花先輩と喧嘩でもしたんですか!?」
訳の分からない論争が続く、続く、続く。
その空気に耐えかねたのは清澄くんではなく、私の方だった。ちゃんと聞いていれば2人が何を揉めているのか分かったのかもしれないが、キンキン響く女子生徒の高い声にずっと耳を傾けるのは苦痛以外の何者でもない。
「あーっと、よく聞いてなかったけれど、そんなに喉が渇いているのなら私が一緒に購買行くよ!報告書は終わるでしょ、多分。さー、行こうか由衣ちゃん!」
「「は?」」
棘のある返し。珠代ちゃんのそれと由衣ちゃんのそれがものの見事にシンクロした。確実に何か言ってはいけない事を言った感が否めないが、気付かないふり。この狭い部屋の中で延々と喧嘩されるのは御免だ。
しかし、ここで私以上に空気の読めない発言者が一人。
「あー、俺も行こうかな。そういえば昼から練習あっとに、いつもの量しか飲み物持ってきとらん」
「え?え、いやちょっとあたしも混乱してきたんで待ってくださいよ、上鶴先輩・・・!」
沈黙。
一瞬後、由衣ちゃんからキラッキラした目で見られた。え、何を期待しているんだこの子は。
やや考え、私は手を打った。
そうか、これだ!
「遠慮しないで、清澄くん!私と由衣ちゃんで飲み物買って来るよ!」
「ファッ!?」
変な声を上げたのは由衣ちゃんだ。訳が分からず珠代ちゃんに助けを求めるも、友人は頭を抱えて俯いていた。頭痛かな。
同じくやや引き攣った顔をしていた清澄くんは茫然とした顔でもう一度席に座り直すと、結局いつものような笑みを浮かべて親指を立てた。
「分かった。もういい、葉木ちゃんに任せる」
――何を!?
哀愁漂う笑みを浮かべた由衣ちゃんに腕を引かれる。その手には財布を持っていた。やっぱり行くんじゃないか、購買。本当は飲み物なんて買いに行きたくないのかと疑ってしまった、ごめんね。