07.
「そういえば瀬戸さん、昼休みに何や目立つ面子で話しとったけど――」
「それは、折竹くんに話す事じゃ無いから」
思いの外ハッキリとした拒絶の言葉。完全に通じるそれで言われたはずなのに、一瞬理解するのが遅れた。別に何か探りを入れたかったとか、興味本位でそんな話をしたのかと言われれば否定する。ただのたんなる、話題の提供という軽すぎる動機だからだ。
――だからつまり、教えてくれなくたって全然良い。会話の足掛かりではあったけれど、さすがにそんなに取り付く島も無く言われてしまえば多少は凹むわけで。
思わず閉口し、次の言葉に迷っているとそんな言葉を放った張本人である瀬戸の方が困った顔をした。いやいや、困っているのはこっちだ。
妙な空気になってしまった。そしてそんな空気をブチ壊すのはいつだって何も知らない第三者だ。
「あら、聡?なんばしよっとね、うちのクラスで・・・って、瀬戸さんも一緒やったとね」
上鶴清澄。彼がここにいる事は何ら不思議な事ではない。5組の生徒だからだ。
一応は空気が微妙である事を悟った友人はしかし、それに一切触れること無く自分の席に着いた。忘れ物をして取りに来た事は明白である。
「あー、清澄」
「んー?」
「瀬戸さん、いっちゃんの帰りを待っとるらしいわ。お前も一緒に帰るか?」
思いの外鋭い視線と視線が交錯する。一瞬だけ押し黙った清澄はへらり、笑った。
「そうやね。どうせ、この後やる事も無いし俺も一緒に帰るか」
貸しだぞ、サイレントにそう告げられ折竹は胃の辺りを押さえた。清澄の貸しはこれでもかってくらい高く付く。いや本当に。
***
数十分後。他愛のない話に花を咲かせているとようやっと葉木壱花が姿を現した。教室に入って来た途端、彼女は首を傾げる。
「あれ?桜ちゃんしかいなかったはずなのに・・・随分と賑やかだね?」
「俺もおるよ、葉木ちゃん」
「やったぜ」
清澄が一緒に帰る事になった経緯は折竹自身の地雷タップダンスによる暴挙で生み出された妙な空気のせいだが、葉木にそれは一切関係ないので言わないでおいた。知らない方が幸せな事、たくさんあると思う。
それに今更、鼻歌まで唄って喜んでいる葉木の喜びに水を差したくない。何がどうして彼女はこんなに清澄に懐いているというのか。