Ep6

03.


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 昼休みが終わる。
 図書委員、折竹聡は視界の端に陣取っていた四天王達がぞろぞろと図書室を後にするのを見て盛大な溜息を吐いた。彼女達がそこにいるというだけで図書室全体を支配する異様な空気と張り詰めた緊張感。長時間耐えられるようなものではない。
 一緒に図書委員をしていた成恬ヌ弥がニヤニヤと話し掛けてくる。彼は隣のクラス――つまり、清澄と同じクラスなのだがそのフレンドリーな性格で様々な方面の友人がいる。あまり話した事の無い折竹だったが、彼の人好きそうな笑みを見て違和感無く会話に応じた。

「何をニヤニヤしとんねん」
「ニヤニヤもするってー。何だか凄い話してたねぇ。というかさ、あの人達ってお互いに面識あったんだね!」
「お前、友達一杯いるやん。何も知らんの?」
「知らないよー。何ていうかさ、空気感が俺の仲良く出来るタイプとは違うんだよね。何ていうの?俺みたいなちょっと中途半端にチャラい奴に厳しいっていうかさぁ」
「せやんなあ。けど、いっちゃんは成怩フクラスによく来るやん」
「あの子は駄目。人の恋路を邪魔する馬鹿は馬に蹴られてフライアウェイってね!」
「フライアウェイ!?ことわざ忘れたからって適当な事言うなよ!」

 授業が始まるので図書室を閉める、という放送をする。と言っても録音された音声を再生するだけなのだが。途端、洗練された動きで次から次へと図書室を後にする生徒達。何故だろう、当然の光景なのに葉木や清澄やらのせいで違和感しかない。
 それにしても、と感心したようにただし微かな畏怖すら滲ませて、困ったように成怩ヘ笑った。

「異様な空気だったよねー。何て言うんだろ、完全にマイワールドっていうか独特の質があるっていうかさあ」
「単品ではそうでもないんやけどな。俺もさすがにあれだけ目の前で真剣な話されたらちょっと恐かったわ。個性の殴り合いみたいな」
「ええ?折竹くん、ちょっと洗脳されてきてるんじゃないかなあ。言っておくけど、葉木さんも十分ヤバイ人だって。あんな普通ですって顔してるけど、ある意味一番ヤバイ人かもしれないよ?」
「よう知ってるやん、成怐Bせや、いつからあの人達って有名やったっけ?」
「え?今年に入る前にはそういう奴等がいるとは認識してたよーな・・・あれ、いつからあんな有名になったんだろうね、そういえば」

 アイドル知名度症候群。
 誰が言ったのかは忘れたが、クラスの女子が言っていた。マイナーなアイドルを応援していたが、気付けば知名度が上がって何だか萎えたとかいう話。彼女達の造語なのだろうが、今更ながらその意味を悟ったような不思議な感覚すら覚える。
 それに、そういえば彼女達って1年や2年の頃、同じクラスだっただろうか。6クラスしかないので一度くらい同じクラスになっても可笑しくないはずなのに、去年や一昨年の彼女達の様子をまるで思い出せない。

「考え事するのは良いけど、手も動かしてねー。仕事終わらないと教科担当の先生に愚痴言われちゃうよ」
「せやな。じゃ、成怩ヘそっちの机整えてくれ。俺はそっちの椅子を元の位置に戻して来るわ」
「りょうかーい」