16.
***
「遅かったね、葉木さん達。てっきり僕達が最後だと思っていたよ」
強制ランニングマシーンを終了し、何とか清澄くんを連れて帰ってきてみれば一番広いであろう本棟組も無事に帰還していた。言うまでも無く私と清澄くんが最後。おかしいな、部室棟は一番狭いはずなのに。
息切れと動悸のせいで息も絶え絶えに月原くんに今までの報告をしようとしたが無駄だった。冬の持久走大会より息切れしている。
「それにしても、お前達はよく叫んでいたな。俺達のところまで聞こえていたらしいぞ」
「ああ。多分君達の叫び声だろう」
呆れる雄崎くんと冷静に純然たる事実を述べる鹿目くん。そういえばこのほぼサッカー部組は何を話ながら肝試ししたのだろう。会話とか続かなそう。
息が整ってきたところで、私は当然の如く本棟組に混ざっている須藤くんに詰め寄った。
「ちょっと!どうしていきなりいなくなったの!?しかも、私達の部室に変なギミック仕掛けてたよね!」
目と目が合う。一瞬だけ無表情を浮かべた須藤くんは次の瞬間、穏やかだけど穏やかじゃない笑みを浮かべた。
「・・・ああ、そうだよ。どう?なかなか凄い仕掛けだったと思わない?」
「悪趣味!ただでさえ清澄くんは怖がりなのに!!」
「あっはっは、すまんね。葉木ちゃん。でも置いて行かなかっただけ進歩したと思わん?」
「むしろ置いて行って!陸部の体力には合わせてられないから!」
ちなみに、と須藤くんはおかしそうに笑う。その視線は珠代ちゃん達に向けられていた。
「女子トイレのギミックも俺だよ。ごめんね、怖がらせて」
「・・・ちょっと。今じゃなくてもっと前に言うタイミングあったでしょ・・・」
「うん。すっかりタイミングを逃してしまったよ」
決して悪びれない。これこそまさに須藤司、と言わざるをえないだろう。
ああそうだ、と不意に鹿目くんが私の肩を叩いた。彼の方から話し掛けて来るのは大変珍しいので思わず身体が硬直する。
「君の私室――葉木ルームとか言ったかな。あのロッカーに危険物を入れるのは止めてくれ」
「・・・うわ、どうしたの。その包帯」
「君の部屋のロッカーに手を突っ込んだら切ったんだよ」
「え?私、ロッカーには制服しか入れてないけど・・・硝子の破片でも入ったのかな」
何だかよく分からないが危険なので、今度1回掃除しよう。いやでも、包帯巻くような怪我をする危険物は本当に入れた覚えが無い。誰かの悪戯だろうか。それにしては性質が悪いけれど。
はいはい、と月原くんが手を叩いた。習慣とは恐ろしいもので、みんなの視線が部長に集まる。
「じゃあ、今日はもう遅いし解散にしようか。あ、デジカメと懐中電灯は回収するよ」
「月原。今月の報告書はどちらが書く?」
「あー・・・僕が書こうかな。ちょっと書きたい事もあるからね」
じゃあ解散、その言葉を皮切りに私達はそれぞれの家の方向へ帰って行く。現在の時刻は午後9時。何だか少しだけ眠い気がする。