夏休み企画

14.


 私が跳ね飛ばしてしまった懐中電灯を拾った須藤くんはそれを手の中で弄びながら、こう言い訳した。

「いやね、葉木さんの為に俺はあの場にいない方が良いんじゃないかって思ったんだよ」
「それはいいけれど、何故こっちのグループに来たのかしら?須藤くん達は部室棟の担当だったのだから別棟の方が近いでしょ」
「え?あんな男ばっかりでムサ苦しい所になんか行けるわけないじゃないか」

 そんな理由で明かりも持たずここまで歩いてきたと言うのか。怖さには耐性がある方の私でさえそんな恐ろしい真似は出来ない。そしてそれは、私より更に怖がらない壱花でさえそうだろう。まさに鋼の心臓。

「いいよね、部長。俺はこっちに加わって」
「ああ、うん。一人で行動されるよりはここにいてくれた方が良いね」
「じゃあ、続けようか。本棟探索を」

 今来たくせにレギュラー顔してるの本当許せない。
 そんな言葉を呑み込み、寛容に頷いてみせる。須藤くんに対して抗議や挑発は無駄だ。まさに暖簾に腕押し。私が知る中で彼が恐れるものなど見た事が無い。

「あのぅ、ちょっといいですか?」

 ここでさっきまで黙っていた由衣が不意に声を上げた。ただしそれは少しばかり不安そうな、そわそわしているような落ち着きの無いものである。

「どうかしたのかな?」
「ちょっと、お手洗い寄ってもいいですか・・・?」

 一瞬だけ空気が凍る。それは生理現象なので責められないのだが、怖がりな彼女がはたして校舎内のトイレを使えるか、という疑問。外に出ていたんじゃ時間がいくらあっても足りない。

「あー、じゃあ私が一緒に行って来るわ。あなた達はそこで待っていて。いい?くれぐれも覗きに来たりしないように」
「あはは、仙波さんは俺達の事を何だと思っているのかな?ねぇ、月原」
「心外だよねえ」

 生暖かい笑顔を向けて来る男性陣に背を向け、所在なさげに佇んでいる由衣の手を引く。彼女は割と遠慮のないタイプの後輩なのだが、こういう時にだけ弱者の皮を被るのは本当に頂けない。
 置いて来た月原くん達から少し離れた所へ来たところで、不意に由衣が呟いた。

「あー、すいません先輩。気を遣わせちゃったみたいで・・・」
「それは良いけれど、電気を長く点けていると目立つから早くして頂戴よ」
「あっはい」

 よーいドン、のノリでトイレの電気を点ける。勿論、こんな時間に学校の電気が点いている事は無いので近隣住民に見つかれば通報は必須。学校側にはこれこれこういう理由だ、と伝えているが如何せん文化部は肩身が狭い。通報騒ぎになったとなればすぐ廃部に追い込まれる事だろう。
 ぼんやりと手洗い場の前に掛かっている鏡を見つめる。トイレの電気しか点けていないので、当然ながら背後はほぼ真っ暗だ。