夏休み企画

13.


 ***

 本棟、と言えば教室がある棟だ。ここには職員室の他、図書室もある。生徒が大半を過ごす棟であり、大きさは他の棟よりやや大きいのが特徴だ。

「無駄に開いている教室が多すぎて時間が掛かるわね」
「うーん、3年の教室だけとかに絞ればよかったね。階毎に3教室だけ見てしまうっていうのはどう?」
「そうね。3階だけで随分と時間を食ってしまったわ」
「もぉぉぉ!何で先輩達はそんなに落ち着いてるんですかっ!」
「え?どこかに怖がる要素とかあったかな?」

 月原くんとこれからの打ち合わせをしていれば由衣が泣き言を言い始めた。全員が集合した時は静かだったというのに校舎に入った途端これだ。

「それにしても、本当に何も無いわね」
「けれど、本棟は2階が本番じゃないかな、仙波さん。だってほら、2階は2年の教室と職員室、図書室もあるし」
「止めてくださいよぅ!あー、でもでも、毎年本棟だけは七不思議の数とか少ないらしいし、大丈夫ですよね!ねっ!?」
「うーん、どうかなぁ。確かに過去七不思議の統計を取っても本棟の話は少ないけれど、5年前は本棟もたくさんあったんだよ、七不思議。何せ建て替わる前だったからね」
「ちょっと部長!止めてって言ってるじゃないですか!何でわざわざ恐怖を煽るような事言うんですか!!」
「ちょっと由衣、静かにしてみて。なにか声が――」
「ヒィィィィ!?」
「・・・あ。あなたの声が反響していただけみたいね」
「ちょっと!不用意に怖がらせるの止めてくださいよ!」

 早く進むわよ、と懐中電灯で遠くを照らす。私が進まない事には誰も進もうとしないので、半ば強引に足を進めた。後ろで由衣が怖いだの、もうちょっとゆっくりして、だのと言っているが聞こえない聞こえない。
 由衣を怖がらせて楽しんでいた月原くんがふと「あれ?」、と声を上げた。何だ何だ、と振り返ってみれば彼は立ち止まって首を傾げている。

「あ、ちょっと待って仙波さん――」
「何よ・・・って、きゃ!?」

 時間も随分経っているしこんなペースじゃ駄目だ、そう言おうとした直後だった。柔らかい何かに衝突したのは。さすがに吃驚したせいか懐中電灯が手を離れて廊下に転がり、壁を映し出す。
 バランスを崩してよろけたものの、腰に回った腕のようなものが尻餅を回避してくれた。いや、たぶんぶつかったのもコレなんだけど。

「わぁ、ごめんね仙波さん。まさか曲がり角ドッキリになるとは思わなくて」
「・・・須藤くん・・・」
「あはは、ああ、これが俗に言うラッキーす――」
「ちょっと、離れてくれる!?」

 どこから現れたのか、須藤くんを強く押すと案外あっさり離れた。こういう行動を簡単に取るところが苦手だ。女子中出身の天敵とも言える。

「あばばばば!?ほ、本当に須藤先輩・・・!?」
「君、懐中電灯も持たずここまで歩いてきたのかい?」

 心底驚いている由衣とは裏腹に、部長の態度は落ち着いたものだった。あのグループ分けになった時点でこうなる事を予想していたのかもしれない。